Sour1
□あなたに愛を、僕に鎖を11
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住友の声に振り向いた佐野が、腕の袖をめくって時計を見た。
「バイト、終わったの?」
頷きながら、真っ青のベンチに座る。
佐野から一番離れたベンチの端から校内を眺める住友は、視界から外した佐野の存在を体全体で感じていた。
組んだ足を小刻みに動かし、組み合わせた手を何度も組み直す。何か言いたげな口は開いたり閉まったりして、しまいには尖らせる。
何か負い目がある時、人は意識せずに行動で示してしまうものだ。
住友の落ち着かない様子に気づかない佐野ではない。
「どうした? 何かあったの?」
「ううん」
すぐさま首を左右に振り、住友は引きつった笑顔を見せた。佐野に向かって、「教官は、もう終わり?」と聞く。
「いや、最終の教習がある」
ふーん、と相槌を打ちながらも口は尖ったままで、明らかに隠し事がありそうな挙動不審な態度に、それが何なのか佐野にはわかりかけていた。
煙草の煙と一緒に大きく息を吐く。
三日くらいが限界だろうと思ってはいたが、やはり女とは違う。
女のパートナーは結構我慢強く、一週間でも文句は言わない。その分、次の楽しみが大きくなることを知っているからだろうが、彼女たちは主人と自分の喜びを心得ている。
会えた時に、何倍にも感じる喜びを目一杯増幅させるため、ひたすら耐える。
「スミ、何か俺に話したいことがあるの?」
「別にない」
「じゃ、なんでここにいるんだ?」
「会いたいから来ただけだし」
尖った口を一層尖らせ、佐野の助け舟にも乗らない。失態を告白するタイミングを与えているというのに、住友は頑なに言い出そうとしなかった。
仕方なく、単刀直入に聞き出す。
「我慢できなかった、とか?」
「何を? してないよ!」
早口でまくし立て、大袈裟に手を揺らす。
「本当に?」
「何言ってんの! 我慢できるよ、そんぐらい」
動揺を隠そうと必死なのだろう、開き切った住友の目は泳ぎ、唇がぱくぱくと動く。
「本当だって! 大丈夫。俺、ちゃんと我慢できるし」
苦笑いを貼り付け、ついには体ごと前後に揺らし始めた。