My Turn
□Non-Communications
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「キャッチできないか、この手じゃ」
起き上がろうとした愛犬の体を無理に戻し、ぶらりと力の抜けた前足を握って少女は笑った。
突然彼は跳ねるように飛び起きて、体をブルブルと揺らした。少女の差し出している手に鼻を近づけ、何かを確認するかのように匂いを嗅ぎ、ふとその場に座る。
首を伸ばして少女の顔を覗く愛犬の頭を撫ぜ、少女はご褒美をあげなくちゃと家にあるおやつの在り処を頭に浮かべた。
「私の話を聞いてくれるのはコタローだけだね。大好きだよ、コタロー」
愛犬コタローにも何か伝えたいことがあるだろう。
人間には、それを聞くことのできる耳を持っていないだけである。
彼にも思うことがあるだろう。何か不満もあるだろう。陽の当たる窓際で満足気に寝ていても、彼は必死に何かを訴えているのかもしれない。
餌をくれるから、おやつをくれるから、面倒を見てもらえるから、愛犬コタローは少女と共にいる。
学校で一緒にいてくれるから、一人にしないでくれるから、友達だと言ってくれるから、少女は彼女たちと共にいる。
そして、少女と少女の学校の友人たちは、話を聞いてくれるから、笑って同意してくれるから、いつもそばにいてくれるから、コタローと少女のことが大好きなのである。
Non-Communications
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