My Turn

□Non-Communications
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「いいなぁ、そっちは。こっちはぜんぜんダメだよ」
 そっちとこっちという言葉で世界を区切るのであれば、ないものを欲する少年の気持ちも理解できるかもしれない。
 少年はこっちはダメだと言う。そして、そっちはイイと言う。
 理想でできた物語の中に焦がれる少年にとって、自分の前にある理想からほど遠い身近な物語は駄作以下としか思えない。

 それはそうだ。
 人間が理想とする物語を思い描いてできたのが、アユミのいる世界なのだから。

「こっちに来てよ、アユちゃん」

 こっちの世界に、アユミのような子はいない。
 アユミの友人たちのような子もいない。
 楽しい先生ものんびり屋の母もいない。
 何もかも、こっちは面白くない。


 少年は微笑みを絶やさずテレビに見入っていた。
 アユミのいる世界の虜となっていた。少年は幸せだった。
 そっち側にいる自分を想像して、少年は妄想の中に生きていた。

 少年の物語はない。
 理想の対極に位置する現実に、少年はいない。



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