My Turn

□天使の梯子(ノーマル)
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「ちょっとくらい話をしてくれてもいいじゃないですか!」
 だんまりを決めている私にしつこく付きまとうこのガサツ男は、私と同じ緩やかなスピードを保ち、私の隣に位置してゆっくりとカービングしながら馴れ馴れしく話しかけてくる。

「何が見えるのか、聞いただけなのに」
 拗ねたように言葉を続ける男を尻目に私は少しだけスピードを速めた。
 冷たい風が頬を凍らせる。視界が狭まると同時に美しい風景は急速に後ろへと消える。目が覚めるような冷やかな空気を吸い込み、酔ったような感覚を呼び起こす。

 突然大きな影が横を過ぎ去ったかと思うと、目の前に目の痛くなるような色のウェアが現れた。その背中は板に荷重をかけるために左右に揺れている。
 雪面を彫るようにターンし、白い飛沫をあげ、雪の大地を削り、男の背後に道を作っている。
 風にウェアをなびかせ、バランスを取るために時より腕を広げ、前方だけを一心に見据え、鳥が空を舞うように風と一体になって斜面を滑りゆく男の背中を正面に、私は男が作った道を通り、その姿を脳裏にいまだ残る誰かの姿かたちに変貌させ、ひたすらに後を追った。

 インナーの中の脇や背中が汗に濡れている。割れるような頭の痛みに顔を歪める。男は大きくターンをして広々とした斜面を大きく使い、右へ左へと揺れる景色を楽しんでいるように見える。
 グランドトリックと呼ばれる技術を駆使し、何度となく板を反転させ、スピードにのりそうな板を操り、体の回転によって向きを変え、伸び伸びと降下していく。
 下り斜面はターンしなければどんどんとスピードが増す。増したスピードは恐怖心を育て、縮こまった心は体を固くし、強張った体は腰を重くする。後ろの足に重心をのせたままターンを繰り返す私には到底男に追いつくことができない。

 待て。待ってくれ!
 私の体は意思と反して思うように動かず、私は男の小さくなる後ろ姿を眩しそうに見送ることしかできなかった。
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