Cocktail
□刑事:塙(はなわ)
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空き地に転がる男の遺体には三つの穴が開いていた。腹部に二つ、頭部に一つ。
「塙、お前知ってるだろ、ガイ者」
手塚は俺の背中に言った。背中で受ける冷たい視線に俺はもう慣れている。
「塙、答えろ」
手に取ったガムを口に放り込むと俺は頭を掻きながら振り返った。
「知らないですよ」
手塚の目に映る俺の姿を捉える。クマのできた顔、やつれた表情、だらしなく動く口、瞳の中の赤い炎。
「調べればわかるぞ、塙」
横から大木が口を出した。
遺体を俺に見せて動揺した姿を拝もうとでも思ったのか。見慣れている遺体一個くらいで俺がガタガタするものか。
脳のない馬鹿ばかりだ。
「知りませんよ、俺は」
先に帰りますと口にして俺は現場を後にした。二人の男のいやしい視線を体中に受けて、疑いの眼差しを全身に刺し、血を噴き出して死ぬのはまだ先だと俺は繁華街へ足を動かした。
浴びている水滴は雨のように優しくはない。
一直線に降りてくる水は体の汚れは落とせても、俺の中の汚い部分は洗い流せない。
「塙、答えろ」
手塚の声がする。あの尖った目の手塚が俺を見ている。
浴室の中のバシャバシャと音のなる水の流れに目をやるとアイツが座り込んでいた。
「塙、答えろ」
アイツの唇が言った。
「正直に言え。お前何を考えてるんだ?」
アイツの目の中の炎はまだ、光を放っている。
時間をさかのぼってあの時に戻っても、俺は同じことをするだろう。
俺が生きていくためだ。俺という存在を維持するためだ。
やることは一つ。
アイツのためでも、俺の中ででかくなるアイツという存在を確立させるためでもない。
「俺はお前を相棒だと思ってる。俺を信じろ」
人を信じるまっすぐな目、興奮すると膨らむ鼻、無邪気に笑う小さな口、熱く一生懸命な言葉、俺の腕を必死に掴む手。
「なんなんだよ、お前。なんで出てくんだよ!」
俺はたった一人狭い浴室の中、アイツに向かって怒鳴り散らした。
誰にも見えない、俺だけにしか見えないアイツ。
こっちを見て口を動かす。過去にあったことを、昔聞いた言葉を、裸の俺にぶつける。
「あれは事故だったんだ。塙、俺を信じろ。俺の言うとおりにするんだ」