My Turn
□ライバルは神様
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彼はいつものように教会の周りを箒で掃き、落ち葉やゴミを拾った。
ミサのない日でも彼は毎日教会を隅から隅まで掃除し、塵一つない綺麗な状態を維持した。神の神聖なる場所を常に美しく保つためである。
開いている扉をノックする音がして教会内の窓を拭いていた彼が入口に顔を向けると、そこにスーツを着た若い男が肩で息をして立っていた。
「神父様、話を聞いてもらってもいいですか?」
若い男は汗をかいた額を拭うと興味本位な眼差しで神父を見た。
近年多くの人たちは神を信じず、自堕落的な人生を送っている。神の言葉を説いたとしても、心に留めることもせず、鼻で笑って神の存在を否定した。
偉大なる神を足蹴にする世の中の人に彼は少し怒りを感じていた。
怒りは良いものを生まないと説いてはいるが、愛する神を愚弄されることを許すことはできない。
だが彼は、神に仕える神父であった。
扉に立つ若い男は「来るものは拒まないと聞きましたが」と無愛想に続けた。
男には男の事情があった。早く教会の中に入れてほしかったのだ。
神父は小さく息を吐くと手を差し伸べた。
「どうぞ、中へ」
男は待ちに待った言葉を耳に入れるや教会内に体を滑り込ませ、扉を閉めた。
視線を軽く下げて礼を言うと男はそそくさと中央のアイル(通路)を歩いて一番前の信者席に座った。
手すりの奥の祭壇には十字架があり、ステンドグラスが外の光を淡く通していた。男は目の前の教壇に立つ司教の姿を想像し、顔を神父に向けた。
神父は窓際から動いていなかった。
「若いんですね」
神父のまだ幼い顔かたちを見て男は言った。
「神に仕える上で年齢は関係ありません」
「俺と同じくらいかも」
神父は怪訝な顔をして眉を寄せると男のもとに歩み寄った。
神にその身を捧げてはいるが神父も人間である。苛立ちや怒りを感じないわけではない。
男の隣、アイル越しの反対の信者席に座ると神父は口を開いた。
「話を聞くためにあなたを教会に入れたのです」
「誰でも入っていいわけじゃないんですか?」
「訪れる人は受け入れます。でもここは神聖な場所です。誰でも入っていいわけではありません」
教会に足を入れた自分を否定されているようで男は少し声を強めた。
「じゃ、誰ならいいんですか?」
「神を求める人です」
一秒も満たないうちに神父は答え、そしてゆっくり続けた。
「救いを求める人、人生に迷っている人です」