短編書庫
□ラスト、クリスマス。
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「…え?」
「何泣いてんだよ!!」
気づいたら、俺は桐嶋さんにでかい声を出され泣いている事に気づかされる。
気付いたと同時に頬に暖かいものが伝う。
…ああ、ばかだろ俺。
思い出した失恋で泣くとか。
「…あー、いや違うんだ…。これは…」
心配させたくない、というか前好きだった奴のことを思い出して泣いたという事を悟られない様に言い訳をしようとするが中々言葉が見つからない。
桐嶋さんは「あいつの事を好きな気持ちは残しておいていい」とは言ってくれたけど仮にも恋人にそんなことは。
そんなことを考えていたせいか、桐嶋さんは
「…あいつのことか」
…悟られてしまった。
「そういや、クリスマスイブは"高野"の誕生日なんだっけか」
心なしか、桐嶋さんの声が怒りを含んだような声に聞こえる。
(怒ってる…のか?)
桐嶋さんが怒れば、暴れ熊と呼ばれる俺だって勝てやしない、というか叶わない。
それぐらい、酷く怖く恐怖で。
嫉妬、ですら本気を出せば怖い。
「…桐、嶋さ…」
みっともなく、声が震えてしまった。
恐怖もあるが 先程まで思い出していた高野との記憶が、デジャブを匂わす。
また、
俺は、
「ごめ、なさ…」
ガタガタと震えてしまう声と体。
また、
消えてしまうんじゃないかと
前から、
貴方が。
「…何がだよ、震えやがって。言っとくが俺は怒ってねえぞ」
「…え?」
桐嶋さんは はあ、と溜め息をつくと俺の目を見ていった。
「…高野の事好きな気持ちは残しといてもいい、だがそんな切ない思いするならそんなやつ、忘れろ。俺ならお前にそんな思いはさせん。頼むから、俺に心配かけてくれるな、…もう泣くなよ」
守ってやりたくなるだろ、とかキスしたくなる、とかそう言うと桐嶋さんは照れ隠しなのかさっさと前を向いてしまった。
「…ひよが待ってるんだ、帰ろうぜ」
そう言って桐嶋さんは俺に手をさしのべる。
手を繋げ、ということだろうか。
今いる道は、普段から人通りの少なく、そしてマンションからの近道。
普段ならそんな道でも公道だから、と手なんざ繋がないのに。
「…ああ」
泣いた後だからだろうか。
俺は、無償に桐嶋さんに甘えたくなったのだ。
「パパー!!横澤のおにいちゃん!!おかえりっ!!七面鳥とかシチューとか色々作っておいたよっ」
帰ると、ひよが玄関で出迎えてくれて捲し上げるように話しかけてきた。
「そうか、楽しみだな。ほら、これクリスマスケーキ。抹茶だぞ」
「本当!?わあ、パパありがとう!パパ大好きっおにいちゃんはもっと大好き!!」
ぎゅ、とひよはケーキを受け取りながらも桐嶋さんに抱きつく。
桐嶋さんはそんなひよの頭を撫でながら言う。
「パパは横澤以下なのかー、ひよそんなこと言ってたらクリスマスプレゼントが貧相になるぞ?」
「わっ!!ごめんなさい!!パパ大好きだから!」
そして俺はそんな光景を見ていると先程までの寂しさが嘘かのように心は幸福感で満ちていた。
思わず口許が綻び はっ、とそこで俺は我に帰る。
そして、気づいたのだ。
俺の居場所はここだ、と。
「おにいちゃん?どーしたの?はやく食べようよっ」
「あ、…ああ、そうだな」
ひよに促され靴を脱ぎコートを脱ぎ玄関から足をあげひよが作った豪華な料理がたくさんあるであろうリビングへと向かう。
これが、そうか。
──俺の、特別な、場所。
───
Last Christmas I gave you my heart
──去年のクリスマス、君に僕の心をあげた。
But the very next day you gave it away
でも、君は翌日には「いらない」って放り出したね、
This year, to save me from tears
今年は、涙を流さないために
I'll give it to someone **
僕の心をあげるのは誰か、
───**の人に。
「桐嶋さん、メリークリスマス。」
end