短編書庫
□ラスト、クリスマス。
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Last Christmas I gave you my heart
──去年のクリスマス、君に僕の心をあげた。
But the very next day you gave it away
でも、君は翌日には「いらない」って放り出したね、
This year, to save me from tears
今年は、涙を流さないために
I'll give it to someone **
僕の心をあげるのは誰か、
───**の人に。
「 。」
ラスト、クリスマス
「横澤、こんなんでいいか?」
「俺に聞くなよ、ひよの事は俺より父親のあんたが一番知っているだろ」
聖夜、クリスマス。…の前日、クリスマスイブ。
街がイルミネーションなる明かりによってキラキラ光っている。
そこの先を少し、抜けた所においしいと有名なケーキ屋で俺達はひよにクリスマスケーキを買いに来ていた。
普通なら予約をして取りに来るのだろうが生憎、例の年末調整による雑誌の締め切りの早まりで予約をとる時間なんてなかった。
だから、こうして買いに来ていたのだ。
クリスマスだから売り切れかな、と思っていたが ここはそれなりに有名な店。買いに来る客が多いかと見越して大量に作ったのだがどうやら余ったとのこと。
不景気だからか、とかそんなことはケーキ屋ではない俺には関係ないんだが。
「ひよは確か抹茶ババロアが好きだったんだから抹茶味のケーキにしたらいいんじゃないのか」
「馬鹿、クリスマスケーキに抹茶なんてあるか」
甘いものがあまり好きではない俺がちょっと考えて言ってみたことを桐嶋さんはばっさりと切り捨てる。
まあ あったらすげえよな。
「いえ、抹茶味のケーキでしたらこちらにありますがどうなされますか?」
そんな会話を聞いていたのかちょっと上品そうな店員が抹茶味のケーキを紹介してくれた。
「…あったじゃねえか」
「まじかよすげえな。…じゃあそれ1ホールで」
「かしこまりました、少々お待ちください。」
このままうだうだ悩むのが面倒臭いのか桐嶋さんは財布から抹茶ケーキの紹介欄に書いてあった"6480円"と少々高めな金額を取りだし店員に渡すとそれを1ホール頼んだ。
流石の親バカ。クリスマスケーキにも金かけるってか。
「お待たせいたしました。どうぞ。生物ですのでお早めにお召し上がりください。ありがとうございました」
しばらくすると頼んだケーキを店員が箱につめそれを袋にいれ桐嶋さんに手渡す。
「どーも」
ガー、と音をたて開く自動ドアを桐嶋さんは通り、俺はその後ろについて通る。
歩きながらの帰宅道。
特に話すこともないので沈黙が走る。
「…」
だから、考えてしまうのだ。
(…あいつ、今ごろ何してんのかな。)
誕生日だから、小野寺と一緒にいるのか、
誕生日祝われてるのか、
…小野寺を、抱いてんのか。
「…」
そういや、俺は去年のクリスマス…イブ、
あいつに何してやったっけ。
…
ああ、プレゼント。
あいつが欲しがってた昭和初期の結構有名な文豪が書いた小説。
昭和初期だし文豪が書いた小説だったからそれなりに値は張ったが、あいつのためなら何でもしてやりたかった。
振り向いてほしかった。
…好きになって、ほしかった。
「…。」
そんなわけ、ないのにな。
大学んとき、始めてあいつと寝たときだって心は違うやつを思ってたって直感でわかった。
あいつが丸川入ってからだって、"こいつの心は他の誰か、限定されたやつを想ってる"って分かってた。
分かってた、けど。
一度、奴と寝て何度目かの時に言ってやろうかと思ったことがある。
『お前の眼中に、俺はいないんだろ?』
と。
…それでも何度騙されたんだろうな。
最中、あいつにされたキスに。
俺のこと、こいつはやはり好きなんだ、と。
…『リツ、』と知らない奴の名前を囁きながらなのに。
「…ぅ、」
「?横澤…って、おい!!どうした!」