SketDance

□またいつか、どこかで
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「じゃあな、道流」

安形が俺の顔を真っ直ぐ見た。

「じゃあね、安形」

俺も、強がって同じ言葉を返した。
今、安形は俺の元からいなくなる。
簡単に言えば引っ越すということだが、俺からするとそれくらい重いことだ。

「早く、行きなよ」

電車の発車はもうすぐ。

「…早く、行ってよ」

沈黙が流れると時の流れが遅くなり、色々なことを考えてしまう。
あの時はあれしてたよなーとか、思い出さなくていい、思い出さないでいたいことが脳裏に浮かぶ。

「分かってる」

珍しく安形も笑顔を見せていた。いや、見せてはいたがそれは俺からすると作り笑いで。

「じゃあさ、目閉じて。俺がその間にここから逃げる」

「道流…」

ずっとこのままいることはできない。ならいっそのこと潔く別れてしまえば良い。
俺の考えていることは、勿論目の前にいる天才も痛いほど分かっているはずだ。

「いくよ、ほら、目閉じて」

「……」

安形に無理矢理目を閉じさせる。
彼も抗うことなく俺の言ったことに従った。


本当だったらこのまま走り去らなくてはならないが、俺はその一歩を踏み出すことができない。

俺は意を決して安形のほうに歩み寄った。
……最後くらい、キスしたっていいじゃないか。

俺がキスしようとしたその瞬間、安形は俺を抱きしめた。

「え」

思わず声が出る。
なにも見えないのにどうした俺がいることが分かったのだろうか…。

「道流、好きだ」

『好き』。
ありきたりな言葉だけど、俺にとっては何よりも嬉しい言葉だった。

目尻に溜まった涙を見られないように、俺は安形の腕から離れた。


そして、『ばいばい』とだけ言って行方も分からず走った。



さようなら、俺の愛した人。
永遠ではないけど、もう長いこと会えないだろう。

俺も、安形のことをずっと好きだから…。


*****

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