SketDance
□let slip
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階段の下をちらっと見ると、藤崎がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。「ふんふふふふふふ、ふっふ」と校歌を口ずさんでいる。相変わらず呑気な奴だ。
「…よし」
僕は小さく呟き、拳を握り締めて藤崎が来るのを待ち構えた。
***
「藤崎っ、」
「あ?椿?」
「は、話がある」
できるだけ自然に話しかけるプランだったのに、なぜか声が上ずった。
「なんだ?」
「こ、校舎裏まで…きてくれな「ボッスンー!」
慌てて声のする方を見るとそこには鬼塚一愛がいた。
「あのなー大変なんやて!矢場沢さんの変態猿がまた逃げおった!」
「まじかよ!」
「早よ行こ!」
「…っ、悪い椿、俺行かないと」
そう言うと同時に猛スピードで藤崎と鬼塚は廊下を走っていった。
「はあ」
いつもなら校則を破った彼らに注意したくなる。というか、する。でもなぜか今はそんなことしている気分ではなかった。
時計を見るとまだ昼休み。また違う機会に藤崎の所へ行こう、と僕は自分に言い聞かせた。
***
放課後、廊下を一人で歩いている藤崎と偶然出会った。
「藤崎っ」
「あ?椿?」
なんか昼休みと殆ど同じ展開なような。
「さっきの続きで、」
「そういやさっきは悪かったな」
「いや、いい」
デリカシーがないくせにそういう所だけ気が利く彼がたまに不思議に感じる。
むしろ、僕はどうして藤崎―双子の兄―なんて好きになってしまったのかも甚だ分からないのだが。
「校舎裏まで来てくれないか」
もう一度勇気を出してみる。
藤崎は頭を傾げた。
「なんかあったのか?」
「ちが「よー」
またもや邪魔が入ったか、とイライラしながら振り返ると会長が欠伸をしながら立っていた。
「なんか用か?」
「お前じゃねーよ」
会長はあからさまに敵意を剥き出した藤崎を宥め、僕の方を見た。
嫌な予感がするのは気のせいだろうか。
「椿、校長に頼まれた仕事忘れててな…その、やってくれ」
「校長に頼まれた仕事ってなんですか!僕聞いてませんよそんなの!」
…気のせいではなかった。
「かっかっか…悪い悪い」
「笑い事じゃないですよ!」
会長の言葉に驚く僕を尻目に藤崎は『俺、いないほうがいいよな?』とでも言いたげな顔をしてそそくさと去っていった。
ああもう、またチャンスを逃してしまった。誰にも見られないように唇を噛む。いつもは尊敬している会長が恨めしくてしょうがない。
「どうした?椿」
「…なんでもないです」
どうやら聡い会長にも僕の、藤崎への気持ちは知られていない…ようだ。
会長を置いて急ぎ足で生徒会室へと歩を進める。
次は藤崎の家に直接行って告白しよう。
例の仕事のことで頭が一杯になりつつも、僕はそう心に誓った。
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