SketDance
□願わくは君と共に
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「安形ーケーキ食べよ!」
手には色鮮やかにデコレーションされたショートケーキながら、道流は満面の笑みを浮かべる。
自分でも忘れていたが、今日、12月5日は俺の誕生日だ。
因みに現在地は生徒会室。今は俺達しかいない。女子二人が空気を読んで、ヨメ男を連れて出ていってくれたのだ。
「はい、安形」
俺がそんなことを考えているうちに目の前にケーキが運ばれてきた。
礼を言ってから口に入れる。
「うめえ!」
相変わらず道流の料理の腕は確かだ。良いものを使っていると思うが、それでも高い技術を有していることが分かる。
「さすが俺…!」
ケーキを食べながら自分で言ってるくらいだしな。
しかし、満足そうに頷いた道流の頬にらさっきついたのだろうクリームがついていた。
高校生にもなってもこんなことするなんて可愛すぎるぜ、と心の中で叫ぶ。
ということで暫くの間癒しとしてそのままの状態でいてもらうことにした。
***
安形がさっきからずっと俺をガン見している。すごい気になるんだけど。
「俺の顔になんかついてんの?」
「ついてる」
まさかのついていた。
安形なんで言ってくれないんだよ、と少し苛々しながら顔を触る。
だが、自分では探すことができない。
「どこらへんについてんの?こっち?こっち?」
そう言って顔の色々なパーツを触る。
安形が嘘をついている可能性もあるのに、俺は何故か必死になって顔に付着してだろう何かを探していた。
「もうちょい上…あー下下」
俺の手の位置に沿って安形が指示する。
でも中々そこには辿り着かない。
「安形とってよ」
むしゃくしゃした気持ちが口調に出てしまう。
だって、こんな姿はレディに見せられないから。いくら俺が安形と付き合っていたとしても、レディに応えることが半ば指名のようなものだ。
「かっかっか」
俺の言葉を聞いた安形は何故か笑いながら、俺の隣に立った。
そして、くいっと顎を手で少し上にした。これじゃ、俺が上目遣いしてるみたいじゃないか。そもそも顔についたものを取るためにこんなことしなくても良いような気がする。
俺がぼーっと考えていると、ふいに頬に何かが触れた。
湿った、生暖かいものは、安形の、舌。
「何すんだよ!」
そういえば今更ながらついていたものがクリームだったことに気付いた。まあ冷静に考えればすぐ分かったことかもしれないが。
「取れたんだしいいじゃねーか」
「よくない!」
「かっかっか」
俺は動揺を隠せない。これは本当に笑い事じゃないのだ。
俺と安形は付き合っている。
ただ、今のところ一度もキスをしていない。ましてや安形の口から『好きだ』とも告白の時以来言われていないのだ。
それなのにいきなり頬を舐めたら誰だって驚くに決まってる。
「どうした、道流。嬉しいのか?」
お前は一々考えてること読むな。
反射的に睨み返した俺に安形は苦笑いした。
でも、と心の中で呟く。今日、あいつが少なくとも僕のことを好きだと言ってくれたことが恥ずかしいと同時に嬉しかった。満足だ。
ちゅっ、と俺は軽く安形の頬にキスをした。さっきのお返しと、俺からお前への3つ目の誕生日プレゼントを兼ねて。
「改めて。ハッピーバースデー、安形!」
願わくはこれからも君と共に、これからも歩んでいけることを。