SketDance
□解けない方程式
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12/06 タイトル変更
※藤←椿
『ついつい』
ふいに誰かが僕の肩を叩いた。
授業はまだ始まったばかり。分からないことを聞くにしてもタイミングがおかしい。
はあ、なんだろう。僕は溜め息をついて横を見た。
「教科書見せてくれ」
そこには手を合わせてお願いしている藤崎がいた。
なぜよりによって僕なんだ。こいつの隣の席は本当に色々面倒臭い。
しかし、
「今日だけだぞ」
ぶつくさ文句を言いながらも、僕は了解した。藤崎に頼まれたことに嬉しく思っている自分がいたのだ。
頼られることは歓迎だ。素直に嬉しい。
でも、これは、今僕が藤崎に抱いているものはいつもとは違う感情。
むしろ藤崎が初めてだと言っても良い。
ずずず、と藤崎の机と床が擦れる音がする。
その音が聞こえなくなると僕は少し緊張しながら教科書を二人の机の境界線上に置く。
授業中の為、それから会話は一切なかった。
静寂の中、時々藤崎の息遣いがはっきりと聞こえる。風が吹く度に藤崎の香りがすぐそこに感じられる。
お陰で僕の心臓の鼓動は早まるばかりで、藤崎側の教科書のページさえ見れなかった。
「問15解いてみろ」
先生が皆に促す。
「問15?」
僕はここだ、と指で示してやった。
クラスメイト達が問題を解き始める。勿論、藤崎も。
ただ、不運なことが一つできてしまった。
問15は僕側のページの下。つまり、藤崎が見ようとするとどうしても僕の方に体を傾ければならないのだ。
「…!」
そして、思惑通りのことがおきた。
僕の手に藤崎の息がかかる。
想像はしていたものの、やはり緊張してしまう。
しかもこれは一度だけでは終わらなかった。僕は気を紛らわせようとノートと向き合ってみるものの、嫌でも問題を確認しようとする藤崎が視界に入ってしまう。
僕と藤崎の距離は僅か15センチ程。
近い。
近すぎる。
また彼の姿が目に写る。
そしてそれと連動するかのように体が熱くなってくる。
「ふ、藤崎」
僕は我慢できなくなって口を開いた。
「どうした?」
できるだけ教室の静寂を壊さぬよう小声で話す。
「その…ち、近い…」
「あ?」
僕の声を聞き取ろうと余計に距離を縮めてくる藤崎。本人はその行動を意図的にしていないはずだが先程の距離でさえ耐えがたかった僕の心臓には甚だ悪い。
「だから、近い」
「なにが?」
「……っ近い!」
思わず大きな声出た。
その上に静かな教室に響き渡り、クラス全員が一斉に僕の方に振り返った。
「すみません…」
怪訝そうな顔で僕を見る先生に軽く謝ると、自分がしたことの恥ずかしさがやっと感じられた。
「お前、なんか今日変だぞ?」
まるで僕の心を代弁するかのように、藤崎が呟いた。
僕にもこの気持ちがどこから湧いてくるのか全く分からない。
僕の人生の方程式に当てはまらない。
でも藤崎、一つだけ分かることがある。
原因は貴様だってことだ。