SketDance
□V
1ページ/1ページ
VThe day before
「安形!久しぶり!」
「よ、道流」
ある土曜日、俺と安形はとある喫茶店で待ち合わせしていた。
安形はもうすぐアメリカに赴任するため、これから長いこと今まで通りには会ったりできない。だから今日、思う存分話そうということになったのだ。
***
「…で、その面接に通ったから行けるんだ」
「正直あってないようなもんだったけどな」
入店して2時間経ったものの、未だにネタが尽きない。
今の話題は、安形がアメリカに行けた理由や、向こうでの生活について。
「向こうの家はどんな感じなの?」
「すげえ広い」
「パーティーとかすれば?」
理由は不明だが俺の中ではアメリカ=パーティー、となっている。あとはコーラとハンバーガーとか。
「めんどくせえ」
「言うと思った」
「でも結婚相手は見つけてえなー」
そう言ってかっかっか、と冗談ぽく笑った。
と同時に俺の胸はぎゅっとしめつけられる。
いや。俺だって分かってる。もう俺達はそういう年だってことを。真剣に将来を過ごす相手を探さなきゃいけないことを。
「…道流、大丈夫か?」
俺、今どんな顔してるんだろう?会話中に急に心配されるんだから相当だろうけど。
「大丈夫」
大丈夫じゃない、なんて言える訳もない。
「そっか」
「…うん」
「まっ、なんかあったら俺に言えよ」
そう言って安形は満面の笑みで俺を見る。
くそ安形、なんで俺のことを心配してくれるんだよ、そんな優しい言葉聞いたら俺に気があるとか思っちゃうじゃんか。期待しちゃうじゃんか。
ああ畜生、と胸中で舌打ちする。
心がぐしゃぐしゃになりながらも、
「…ありがと」
なんとか喉から言葉を紡ぎ、安形を安心させる為に無理矢理笑ってみた。上手くできてたかな?
そして数秒後、
「…あ!ごめん、俺用思い出した」
ガタッ、という椅子の音と共に勝手に俺の口がそう動いていた。自分でも自分の行動に内申驚く。
でも、それが俺の本心だったし、本能は己の力では到底コントロールできない。
「は!?」
急に席を立った俺に安形は呆気にとられている。
だから、少し笑ってこう言ってみた。
「明日、絶対行くから」、と。
そして足早に店の出口へと真っ直ぐ歩く。
「おい、道流っ、」
遠くで安形の声が聞こえたが、俺は怖くて振り向けなかった。俺にできたことは店から全速力で走り去ること、ただそれだけ。
***
その時の俺は正直爆発寸前だった。限界だった。あのままだったら自制心がなくなり、公の場でキスとかしてしまっていたかもしれない。だから俺は、目から涙が溢れそうになるのを懸命に堪えながら、安形の前から走り去った。
もし、仮に俺があの場所から逃げていなかったらどうなっていただろう?そんなことしたら俺達の関係はどうなっていた?
…俺には破綻しか考えられない。
破綻は今まで培ってきた思い出が消えることを意味する。それだけは絶対に嫌。
確かに少女漫画のワンシーンみたいに、そのまま告白っていう手だってあった。でも俺はそんなに強い人間じゃない。だから、こうすることしかできなかった。
ほんと俺ってダメな奴。
明日はもう、安形が出発する日なのに。