SketDance

□V
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VThe day before


「安形!久しぶり!」

「よ、道流」

ある土曜日、俺と安形はとある喫茶店で待ち合わせしていた。

安形はもうすぐアメリカに赴任するため、これから長いこと今まで通りには会ったりできない。だから今日、思う存分話そうということになったのだ。

***

「…で、その面接に通ったから行けるんだ」

「正直あってないようなもんだったけどな」

入店して2時間経ったものの、未だにネタが尽きない。
今の話題は、安形がアメリカに行けた理由や、向こうでの生活について。

「向こうの家はどんな感じなの?」

「すげえ広い」

「パーティーとかすれば?」

理由は不明だが俺の中ではアメリカ=パーティー、となっている。あとはコーラとハンバーガーとか。

「めんどくせえ」

「言うと思った」

「でも結婚相手は見つけてえなー」

そう言ってかっかっか、と冗談ぽく笑った。
と同時に俺の胸はぎゅっとしめつけられる。
いや。俺だって分かってる。もう俺達はそういう年だってことを。真剣に将来を過ごす相手を探さなきゃいけないことを。

「…道流、大丈夫か?」

俺、今どんな顔してるんだろう?会話中に急に心配されるんだから相当だろうけど。

「大丈夫」

大丈夫じゃない、なんて言える訳もない。

「そっか」

「…うん」

「まっ、なんかあったら俺に言えよ」

そう言って安形は満面の笑みで俺を見る。
くそ安形、なんで俺のことを心配してくれるんだよ、そんな優しい言葉聞いたら俺に気があるとか思っちゃうじゃんか。期待しちゃうじゃんか。

ああ畜生、と胸中で舌打ちする。

心がぐしゃぐしゃになりながらも、

「…ありがと」

なんとか喉から言葉を紡ぎ、安形を安心させる為に無理矢理笑ってみた。上手くできてたかな?



そして数秒後、

「…あ!ごめん、俺用思い出した」

ガタッ、という椅子の音と共に勝手に俺の口がそう動いていた。自分でも自分の行動に内申驚く。
でも、それが俺の本心だったし、本能は己の力では到底コントロールできない。

「は!?」

急に席を立った俺に安形は呆気にとられている。

だから、少し笑ってこう言ってみた。

「明日、絶対行くから」、と。
そして足早に店の出口へと真っ直ぐ歩く。

「おい、道流っ、」

遠くで安形の声が聞こえたが、俺は怖くて振り向けなかった。俺にできたことは店から全速力で走り去ること、ただそれだけ。

***

その時の俺は正直爆発寸前だった。限界だった。あのままだったら自制心がなくなり、公の場でキスとかしてしまっていたかもしれない。だから俺は、目から涙が溢れそうになるのを懸命に堪えながら、安形の前から走り去った。

もし、仮に俺があの場所から逃げていなかったらどうなっていただろう?そんなことしたら俺達の関係はどうなっていた?


…俺には破綻しか考えられない。
破綻は今まで培ってきた思い出が消えることを意味する。それだけは絶対に嫌。

確かに少女漫画のワンシーンみたいに、そのまま告白っていう手だってあった。でも俺はそんなに強い人間じゃない。だから、こうすることしかできなかった。




ほんと俺ってダメな奴。

明日はもう、安形が出発する日なのに。

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