SketDance
□照れ隠しの理由
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ある日の朝、校門前。
「道流ー!」
漫画だったらダダダ、という風な擬音がつきそうな勢いで安形が俺の方に走ってくる。
「おはよ、安形」
俺はそれを華麗に躱(かわ)す。
だって、いくら付き合っているからとはいえ、こんな公の場で抱きつかれるのはかなり恥ずかしい。
「相変わらずだな…ま、いーけど」
最初は『あ、いいんだ』なんて思うこともあったが、今はあまりにも日常茶飯事なことでそんなこともなくなった。
恐らく安形もそうだろう。
「でもさ、付き合ってんだからおはようのチューくらいしてくれよ」
「外人じゃないんだから…」
俺は自分の顔が真っ赤になっていくのを感じて、慌ててそっぽを向く。
こんな顔、安形に見られたら本当に恥ずかしいじゃないか。
「なんだよ道流ー。照れてんのか?」
きっと、にやにやしながら全てを悟ったような目で俺を見ているんだろうな。
視線だけでも分かる。
「別に照れてねーよ」
俺の、精一杯の照れ隠し。
場から逃げ出したくなって、歩くスピードを少し早めたその時。
俺の体を温かい何かが包み込む。
勿論、それは安形だった。
「…っやめろ、離せ」
恥ずかしさと胸の鼓動が頂点に達しそうになり、俺は必死になって安形の腕から抜け出そうとする。
でも、いくら足掻いても無理そうだった。
なんせ俺が抜け出そうと試みる度に安形はどんどん強く抱きしめてくるから。
「道流、顔真っ赤」
「うっさい」
いつも出さないような甘い声で、しかも耳元で言うな。
俺がどうかしてしまいそうになる。
「まだ出ようとしてんのか?」
にやにやした顔で俺を真っ直ぐ見てくる。
完全に遊ばれてる。
「悪い?」
「今日は無理だけどな。絶対離さない」
そう言って安形は俺の額に小さくキスをした。
そして同時に俺は体の力が抜け、抗うという行為を忘れる。
だって、
「どうした?いきなり静かになったけど」
「…いーじゃん」
ここが、安形の胸中が一番気持ち良いし、遠慮しなくて済むから。
本当はいつもこうして安形が抱きついてくるのを受け入れたほうが良かったのかな?
「ねえ、安形」
「何」
「続きは裏でやろう?」
…いや、やっぱり二人だけの時間は他人には極力見られたくない。
何故なら安形が俺だけに見せてくれる表情を見れるのは俺だけだから。
他人は持てない、特権だから。
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