SketDance

□輪愛
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「榛葉さん!」

「あ、椿ちゃん…ごめんね、また今度」

何度その言葉を聞いただろうか。
毎日毎日、一縷の望みを抱きながら僕は榛葉さんに一緒に帰ろうと誘っている。
しかし、さっきの会話の通りそれが叶ったことは殆どない。
というかむしろ、一度もない。
それは全て榛葉さんが会長と付き合っているからだ。
僕が生徒会に入り、榛葉さんを知る前からもう二人はそういう仲だった。
勿論、僕の入る隙間はどこにもない。
でもなぜかこうして、僕は榛葉さんを好きになってしまった。
初めは、男同士の恋愛があるとは知っていたものの、断じて認めておらず、しかも自分がそのようになるなんて想像すらできなかった。

思い出せば、僕が榛葉さんを好きになったきっかけはある日の放課後だった。

***

その日、僕は誰もいない生徒会室で仕事をしていた。
すると、暫くしてドアが開く音がして、見てみると榛葉さんが珍しく一人でそこにいたのだ。

「今日は会長と一緒じゃないんですか?」

「安形、校長に呼び出されちゃって」

「そうですか」

……会話、終了。
それ以上話すこともなく、僕は仕事に戻り、榛葉さんはソファーに座った。




どれくらい時が過ぎただろうか。

「なんかさ、椿ちゃんといると楽しい」

いきなり榛葉さんが話しかけたきた。
しかも、どう反応すれば良いか分からないような内容を。

「…ありがとうございます」

一応お礼を言っておく。

「安形といると、そりゃ中学の時からの付き合いだし、楽しいんだよ。でもなんていうか、椿ちゃんとの『楽しい』は癒されるというか落ちつくというか」

なぜか榛葉さんは熱く語り出した。
勿論僕はまたもや反応に困ると同時に、少し嬉しさにも浸っていた。
今まで榛葉さんとはあまり接点がなかったのに、こうして落ちつく、などと言ってもらえたのだ。

「僕も、榛葉さんといると落ちつきます」

榛葉さんの言っていることが本当だと信じ、僕も本音を言った。
会長を筆頭に、浅雛、丹生。
どいつもこいつも一緒にいて楽しいが、どこか気が休まらない。

「そう言ってもらえると嬉しいな」

少し照れた様子で榛葉さんは笑った。
その時、僕は気づいた。
自分が、榛葉さんから視線を動かせないことを。

榛葉さんがかっこいいことは、僕にだって分かる。
でも、どうして榛葉さんにファンクラブが存在する理由が甚だ謎だったが、今分かった気がする。

言葉では言い表せないけど、榛葉さんには人を虜にする何かがある。
きっとシンバルズの女子達も、会長もそれに魅了されたのだろう。


***


それからというものの、僕は榛葉さんを見るたびに目で追うようになっていた。
自分でもどうしてか分からない。
あの日から、榛葉さんと二人で向き合って会話したことさえないのに。
でも、日に日に僕の心を榛葉さんが占める割合は増えるばかり。
榛葉さんのことを考えるだけで胸が苦しくなって、どうしようもできなくなるのだ。

そして、僕の榛葉さんへの思いは恋だとは薄々気づいてはいたものの、どこかで認めたくない気持ちもあったことは否めなかった。
しかし、榛葉さんを見てしまうと再び頭が彼で一杯になり、否定できなくなる。

人は恋をすると、思いを恋した相手に伝えたくなるものだ。
でも、僕は榛葉さんにこの思いを永遠に伝えられない。
だって榛葉さんは昔からずっと、会長のものだから。
悔しいけど、僕が榛葉さんと結ばれることは絶対にありえない。
ありえないと分かっているのに、この気持ちに別れを告げられない。
それはきっと、榛葉さんが僕に時おり見せてくれるあの笑顔のせい。
あんなの見せられたら、僕のこと特別に思ってるって勘違いしちゃうじゃないか…。












僕が初めて恋した相手は、生徒会の先輩で、料理が上手で、笑顔が素敵で、みんなのことを思いやれて……もう誰かのものになっていた人。

僕が彼を好きになった日から今日で大体7ヶ月。
率直に言えば片想い歴7ヶ月。


それでも叶わぬ恋を、今日も僕は追い続けている。


*****


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