SketDanceU
□君の名前
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僕の手に握られているのはバレンタインデーのお返し。
つまり、今日はホワイトデー。
そして、渡す相手は、
「……丹生」
「どうしましたか?椿君」
同じ生徒会で共に活動する会計、丹生美森。
そして、驚くべきことに僕達は付き合っている。
僕は、お茶を次ぐ丹生に一つの質問をした。
「丹生は…その…僕のこと……ど、どう思う?」
たまに分からなくなるのだ。丹生が本当に僕のような人間で満足しているのかどうかが。
だって僕達はまだ彼氏彼女の関係に相応しいことを何もしていないから。
「椿君のことですか…」
丹生は困った要な顔をして考え込んでしまった。
僕は内心ドキドキが止まらない。
初めて勇気を出して聞いたこと。もし思いもよらないことを言われたらどうしよう――
「大切な人、ですかね」
そう言って丹生は照れくさそうに僕を見た。
僕もドキドキしていた。先程とは違った意味で。自分から聞いた質問のはずなのに。
「でも、」
丹生はいつものような笑顔を浮かべた。
「一つだけお願いがあります」
付き合って丹生がお願いなんて言うのは初めてだ。どこ行きたいか聞いても『椿君に合わせますわ』というような彼女が。
「私のことを、名前で呼んでください」
でも、そのお願いは思っていたものとは全く違っていた。
「なま、え…」
「はい。その……美森、って…」
僕は丹生の顔を正視できない。丹生もきっと同じだろう。
まあ確かに付き合っているのに名前で呼んでいないのも珍しいのかもしれない。
「み、み、み、」
僕は勇気を出して呼んでみることにした。
「そんな恥ずかしがらなくていいんですよ」
「…分かっている…み、み、みも、り…!」
一人の名前を呼ぶだけでこんなに体力を使ったのは初めてだ。
「ふふ、佐介君」
丹生は今度はいたずら気な笑顔を浮かべてそう言った。
「み、みも、……すまん」
「いいんですよ、これから慣れていけば」
「そうだな…。あ、そういえば、」
僕は握ったままのプレゼントを丹生に渡した。
「大したものではないが…」
「いえ、嬉しいです…!」
嬉しそうな彼女を見て改めて思った。
名前呼びも、彼氏彼女のようなことも、これから慣れていけばいいのだ。
なんせ、僕達の関係はまだ始まったばかりなのだから。