SketDanceU
□かえりみち
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「会長は、その…大学入ったら彼女、とかつくるんですか…?」
ある日の帰り道、椿が俺にそわそわしながら聞いてきた。
しかもよりによってなぜその質問なのだろうか。まあ、こんなに一緒にいて俺の気持ちに気づかないところも椿らしいといえば嘘ではないが…。
「どうだろうな」
答えなんてとっくに出ているのに、俺はわざとはぐらかせた。
「そうですか…」
空気を読んだのか、椿もそう言うと黙ってしまった。
ふと椿の横顔を見てみる。なぜなら、こうして隣に立って歩くことももうないだろから。
椿の睫毛が風になびき、夕陽に反射して光った。
***
気づけば別れるところだった。
「椿」
先に沈黙を破ったのは勿論俺。
「……こっち来い」
椿はびっくりした顔を浮かべた。そんな反応されると、なんだかむしゃくしゃした気分になる。
「会長、どうしたんですか…?」
「いや、別に」
表情が顔に出てしまっていたらしい。
だが、結局椿は『会長命令』に従って俺の側に来た。
「なあ椿」
「はい」
「今、どうしてもしたいことがあってな、」
椿は黙って頷いた。
「………やっぱりいい」
ここまで行動をおこしたのに俺は目標達成寸前のところで止めた。
理由は一つ、自分にはこういうことは似合わないと思ったから。
だから、
「………かい、ちょう…?」
俺はなにも言わずに椿を抱きしめた。
椿の甘い香りが俺の鼻をくすぐって、抱きしめる力をより強くする。
それでも、椿は逆らわず俺の胸に顔を埋めたまま。
一方の俺はというと、今は嬉しいはずなのになぜか心の奥底でズキズキする痛みと戦っていた。
これはなんだろうか。
どうしてどこか寂しく思えるのだろうか。
俺は自分の気持ちを抑える為に椿の髪にそっとキスをした。
「椿…大学にも来てくれるよな?」
「もちろんです」
「ありがとな。キス、していいか?」
さっき止めたことなのに。
無意識に口が動いていた。
何も答えない椿。かなり急な流れだったこともあるだろう。
ああどうしてこんなこと言ってしまったのだろう、と俺には珍しく後悔が押し寄せてきたその時。
「…お願いします」
椿の口が動いた。
「本当か?」
「はい」
俺は思わず目を見張った。嘘だと思った。あの生真面目で男女間のそのような行為にさえ口煩い椿が男同士のキスを了承したのだ。
改めて椿の顔を自分のほうに向ける。
緊張が止まらない。
恐る恐る俺の唇に椿のそれを近づけ……
キスをした。
***
している時の記憶はあまりない。
でも、思い出せるのは、夢のような時であったこと。
また、そのキスは俺にとって色々な意味をもつものになった。
まず、(地味に)俺たちのファーストキス。
次に高校卒業の思い出。
そして………
愛しい人との最初で最後かもしれない甘い記憶。