SketDanceU
□リバースラブ
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「おーい藤崎いるかー」
入り口の方から声がしたが、俺は声の主を知っている。だからわざと反応しない。
「ボッスン、呼ばれてる」
ヒメコが俺を諭した。
「ヒメコー別に行かなくていーから」
「そうなん?あの人ずっとあそこに立ってるけどな」
「いーのいーの、どうせあいつ暇なだけだから」
「俺がどうした?」
俺とヒメコの間に割り込んできたのは俺を呼んでいた人物――安形惣司郎だった。
「お前なんで入ってくんだよ…」
「いーじゃねーか。俺会長だし」
またいつものようにしらーっと笑顔を浮かべた。
俺はこいつの笑顔が嫌いだ。
全てを見通してるかのようにしか見えない。まあ、実際そうかもしれないが。
「……帰ってくれ」
「話したいことがあるんだけどなー」
「…帰ってくれ」
「お前のとこの部室取り上げるぜ?」
「………わかった、聞く」
俺はこいつのとる手法も嫌いだ。相手の弱点を無駄に正確に突いてくる。
「いいか?一度しか言わないからちゃんと聞けよ」
そう言って安形は俺の耳に己の口を近づけた。肌と肌が触れあっていてなんだかむずむずする。
「…早くしろよ」
理由も分からず高鳴る気持ちを抑えられなくなっている自分がいた。
「ほんとに一回しか言わないからな?」
どうでもいい確認をとる安形。
ああ、もう早くしてくれ。
安形の息が聞こえた。
『………………………』
***
「なあーボッスン大丈夫かー?」
ヒメコが大袈裟に俺の前で手を振る。
「ああ…」
意識はちゃんとある。しかし、それと同時に身体中が熱くなる。
急いでクラス内を見渡してみても、安形の姿はもうそこにはなかった。
ああ、ちくしょう。
ずるい。
卑怯だ。
耳元で『好きだ』って言うなんて。
そして、不覚にもときめいてしまった自分がいた。
なんだか猛烈に悔しくなる。理由は分からないし、身体が熱いのも止まない。
でも、いつもの悔しさとは違くて。
少し、安形との心の距離が縮まった気がした。