SketDanceU
□好きって言って
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好きって言って
「椿、お茶」
「はい」
「椿、書類」
「はい」
最近、安形はことあるごとに椿ちゃんを呼ぶ。
まあ元々置物会長とは呼ばれているけど、椿ちゃんに雑務以外のこともさせているように見えるのは俺だけだろうか。
安形に構ってもらえている椿ちゃんが堪らなく羨ましかったけど、あえて何も言わなかった。
──俺には特別なことしてくれるだろう、って。
***
でも何故か俺の期待通りのことは何日も起きなくて。
それよりむしろ安形はどんどん椿ちゃんに構っていくように見えたし、事実そうだっただろう。
俺達はれっきとしたカップルなのに、なんでだ?という疑問が俺の頭を渦巻くだけだった。
だからといって自分から公共の場で甘えるのはらしくないし、最近は文化祭の準備でお互い多忙だからどちらかの家に行くことさえもできない。
そんな自分にも嫌気がさしていた。
放課後。
いつもの道を、今日も二人で歩く。
「安形あ」
「なんだ?道流」
繋いだ手をぎゅっと握りしめる。
「最近、なんで、あんな、………」
気を緩めたら感情が溢れ出てしまいそうで、出そうになる涙を必死に堪えるのが精一杯だった。
そんな俺を安形も何も言わず、見つめていた。
「椿、ちゃんのことばっか……」
「かっかっか」
恋人が泣いてるっていうのに、静かな道に安形の乾いた笑い声が響いた。
「なんでそんなに能天気でいられるんだよぅ……」
安形の馬鹿、と内心呟く。
俺のこと嫌いになったのか?
それとも、椿ちゃんのことを………?
俺は感情の制御ができなくなって、遂に涙が流れ出た。
すると、そんな俺を、さっきの笑い声とは一転して真面目な声で安形は抱き締めてくれた。
「やっぱり焼きもちやくんだな、お前も」
その顔は俺には見えないけど、きっと悪かったなんて気持ちは微塵もないような笑顔をしているだろう。
………あれ。待てよ。
ってことは……、
「なに?わざとだったわけ?」
「あーごめんごめん。本当はもっと早く、なんてゆーの、道流がアピール?してくると思ってたから」
なんだよ、ほんと。
俺はただ、安形に構ってほしかっただけなのに………。
「馬鹿安形」
でも、これで俺だけを見てることが分かったから許してやろうかな。
「じゃあさ、」
俺は安形の腕をゆっくりとほどく。
「好きって言ってよ」
最近、言ってくれなかったあの言葉を。
俺が一番好きなあの言葉を。