VampireKnight
□嘘の裏表
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「錐生君、今晩暇ー?」
「いきなりどうしたんですか」
錐生君はあっち行けとばかりに怖い視線で僕を見る。まあこれは慣れっこだし、そんなに怖くない。最初は確かにちょっと怖かったけどね。
「枢が錐生君に会いたいって」
「………」
ほら、また何も話さない。
でも僕は分かってる。錐生君が枢の誘いを絶対に断らないってことを。
「じゃあ、行くって伝えとくね!2時に月の寮だから!」
めんどくさくなった僕は返事も聞かずに走って帰った。
***
「錐生君、ようこそー」
時刻通りにやはり彼はやって来た。来なかったら逆に困るが。
「あがってあがって」
僕は無理矢理背中を押して、応接間のソファーに座らせた。
「玖蘭先輩が俺に何の用ですか」
錐生君は綺麗な瞳を細める。
「うん、まあ急がなくたっていいんじゃないの?夜はまだ長いんだし」
「副寮長、俺はそんな暇じゃないんですよ」
「分かってるって」
「優姫に一人で見回りなんて危なっかしいので…」
「ふうん、」
ちょっと今の錐生君の言葉に嫉妬した自分がいた。
「じゃあ五分だけ時間貸してよ?」
「……五分くらいならいいです…けど…ってそんな近くに寄らないで下さいよ……」
しょうがないじゃないか。これが僕の君を誘きだす一番の方法だから。
でも、その言葉は敢えて口にせず、代わりに錐生君をソファーの上で押し倒した。
「……どういうことだ、離せ」
錐生君は僕に抑えられた手首を必死で自由にしようとする。
「五分だけならいいんでしょ?」
「……離せ」
「許してよ、これしか君を呼び出す方法はなかったんだから」
そう言って僕は我を忘れて彼の唇にキスをした。勿論血は吸わない。理由は簡単。優姫ちゃんとかにバレたら困るから。
錐生君の唇は思った通り甘い味がした。そして、髪を撫でる度にビクッと反応するのも堪らなく可愛い。
***
「はい、錐生君、五分経ったよ」
「……副寮長、なんのつもりだ」
「うんー?何が?」
「とぼけんな。玖蘭枢が俺を呼び出してるって言ってたじゃないか」
……段々危ない空気がしてきた。このままだと確実に対吸血器用銃向けられる、と僕の本能がそう言っている。
「まあまあ、いいじゃないか」
錐生君が顔をしかめた。綺麗な顔なのに勿体無い。
「今日は何月何日か分かる?」
「もういいです、帰ります」
どうやら僕が彼を馬鹿にしてると思ったらしい。物凄い早さで帰ってしまった。
嘘ついたのにもちゃんと理由があったのになあ、と一人ソファーに横たわって思う。
それに、今日がエイプリルフールだと知らないのも、『玖蘭枢』と聞いただけで易々と行動してしまう彼も、悪い。
また来年も同じことをしようかな?