VampireKnight
□ただ、君に会いたい
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※15巻ネタバレ注意
※架+藍
コツコツ、と誰かが階段を降りてくる音が聞こえる。
こんなところにくる奴なんて黒主優姫と――
「…何しにきた」
錐生零、次代のハンター会長様。それしかいない。
「…別に、教えに来ただけです」
ドアに凭(もた)れながら錐生は言った。
黒主学園にいた時は、こいつが嫌いで嫌いでしょうがなかった。まあ、今でも嫌いなことには変わりないが、昔とは少しその感情も異なっている。とにかく、だからこそ今こうして話していることが奇跡に等しいのだ。
「あんたがお目付け役してる問題のヤツが何か問題起こそうとしている。放っておくならそれでもいいし、気になるなら協会長か本人に詳しく聞いておけ。じゃあ」
錐生の口調はどこか他人事のようだった。
確かに、枢様の妹君が何か問題に成りうることをしようとしている。それを放っておくのは目付け役である僕には死活問題。でも、今はそんなこと…と言ったら怒られるが、どうでも良かった。
「お前…本当は僕の様子を見に来たんだろう」
「僕が枢様に…枢様への憎しみにさいなまれて、妹の方にも憎しみを」
「…嫌だ僕は絶対そんなふうにはならないぞ」
「僕はお前のようにはならない」
錐生が振り向いたような気がした。
「どんなに今が辛くとも…ちくしょう…悪い事ばかり考える…ちくしょう…」
錐生に何かを話そうと思って開いた口は気づけば全く違うことを発していた。そしてそれはいつしか独り言になり、僕の視界から錐生はいなくなっていた。
また、ひとりぼっちになった。
一人になると、自ずと辛いことばかりが頭に浮かぶ。
黒主学園にいた頃は、昔は、暁が隣にいた。楽しくても、辛くても、悔しくてもいつもいつも僕の味方でいてくれた。僕のとばっちりで一緒に停学になったこともあったんだっけ。
また、辛くなった。
楽しい事を考えていてもすぐに苦しみが溢れ出す。
「暁…」
無意識に従兄弟の名前を読んでいた。
今、彼はどうしているのだろうか。恐らくというか間違いなく瑠佳と一緒にいることは分かるのだが、その先の情報は全く入ってこないし、分かったとしても僕がここから動ける保証は無い。
今まで当たり前だと思っていたことがなくなる辛さ。いつこの状況から打破できるのだろうか。
僕はただ、暁に会いたい。