VampireKnight

□ふいうち
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「ただいま」

ガチャッ、という音とともに支葵がモデルの仕事から帰ってきた。
ちなみに、今は午後3時。
吸血鬼からすると夢の中にいる時間なのだが、僕は昼ふかしをしていた。
というか、近頃昼ふかしの回数がかなり増えてきている。
それはなぜかというと、漫画を読むためと、

「おかえりー」

支葵の帰宅を待つため。


「一条さん、ケーキもらってきた」

そう言って可愛いパッケージの箱を僕に差し出す。
支葵は、前にインタビューかなんかで好きな食べ物はお菓子、と答えたせいで毎日膨大な量のそれが届く。
贈ってくる相手は普通の女の子のみならず、メイクや雑誌の編集長など多岐に渡る。
今回も後者のうちの誰かにもらったのだろう。
少し妬くが、僕は甘いものが好きだからいつもありがたくもらっている。

「じゃあ、食べようよっ」

今にも眠そうな支葵を無理矢理自分のほうに引き寄せ、膝の上にのせる。
だって、せっかくこうして二人きりの時間がとれるのだ。
生かさないわけはない。



ケーキの箱を丁寧に開く。
モンブラン、ショートケーキ、チョコレートケーキ、ナポレオンパイ…
そこには色鮮やかなケーキ達が5、6個綺麗に整列していた。

「見てよ、美味しそう!支葵はどれがいい?」

僕はこれ?これ?これ?と一つずつ順番に指していく。
それなのに、

「…どれでも」

当の本人は無関心だった。

「じゃあ勝手に取っちゃうよ!」

そう言って僕はああもう、と呟く。
でも、僕は支葵との時間を守るためにケーキを選び始める。

よく分かんないけど支葵にはショートケーキは似合わないな。
あ、そういえばチョコレート好きだったっけ…

色々考えていたその時。

『クチュッ』

痛みとともに、耳元で唾液が混じり合うような音がした。

慌てて音のした方を見ると、支葵の白い牙が見えた。
そしてその瞬間、ことを全て理解する。
支葵が、僕の血を貪っていたのだ。

別にこれが初めてなわけでは決してないし、嫌でもない。
でもいきなりされたことは今までなくて、僕はどうしようもできずにただ、吸血され続けた。


「…んぁっ…」

不本意ながらも、吐息が止められず、漏れてしまう。
それが聞こえるたび、支葵は僕をもっともっと強く抱きしめてくる。

「…んっ…」

部屋が僕の血臭で満たされていくのと、支葵の温もりがより感じられるのに比例して、僕の意識は薄くなってゆき…


……………


***


「一条さん」

誰かが、僕の体を突っついている。

「…いーちじょーさん!」

いきなりの強い揺さぶりによって、僕の目は覚まされた。

「!?」

「…起きた」

目の前には制服姿の支葵がいて、支葵の体の隙間から見える外はすっかり暗闇に包まれていた。
もうそんな時間か。
どうやら僕はかなりの間意識を失っていたらしい。
正直めんどくさいけど起きないと。

「頭痛いいい」

顔を上げた瞬間、後頭部が激しい痛みに見舞われた。
これじゃあ授業に出られないじゃんか。
また枢に昼ふかししてたからとかなんとかぐちぐち言われてしまう。

「俺さ、そこまで飲む気なかったんだよ。だから、ほんとごめん」

苦しむ僕を見て、罪悪感を感じてしまったのか、支葵が申し訳なさそうな顔をする。
まあ確かにあれは少し飲みすぎかもしれなかったが。

悪いと思うなら、と僕は前置きして意地悪そうに笑う。

「じゃあお詫びに僕と授業さぼってよ」

「え?」

「だから授業さぼってよ」

あまりにも急なお願いに支葵は戸惑っているようだ。
まあそれが普通の反応なのだが。
支葵は一瞬悩んだ後、

「…莉磨に怒られるかもしれないけど、一条さんと一緒ならいいや」

少し照れながら了解してくれた。

「支葵、こっち来て」

「どうしたの?」

僕の満面の笑みでの手招きに、首を傾げながらも素直に支葵は従う。



僕と支葵との距離。

50センチ…
40センチ…
30センチ…
20センチ。


『クチュッ』

支葵の首に腕を絡め、僕は思いっきりその透き通るような白い首筋に噛みついた。




これ、さっきのお返しだからね?

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