SketDance

□夢事
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※安→←椿
※安形が鈍感



「会長ー」

ある日、僕は生徒会の仕事が多すぎたため、会長に助けを求めた。
今日は丹生、浅雛、榛葉さんは揃って用事があるそうだ。

「会長ー」

もう一度呼んでみたが、返事はない。

「はあ…」

溜め息と同時に僕は諦め、自分でなんとかすることにした。





数分後。
こくっ、こくっ、と会長の頭が揺れるのが視界に入る。
会長が寝ているのはいつものことだが、今日は二人きりのためかいつもに増して気になってしまう。

「そうだ、」

僕は会長を起こさないように小声で呟く。
仕事もそろそろ疲れてきたし、会長のことをちょっと観察してみよう。
これは他の三人がいたら絶対にできない。
チャンスだ。
僕はそう心の中で言い、会長の机の方まで歩み寄った。


首を傾け、緊張とともに会長の顔を覗きこむ。
会長のことをこんなに近くで、しかもまじまじと見るのは初めてだ。


寝息を肌で感じる位置まで寄ってみる。
鼓動は早まるばかりで、脳は早く仕事に戻ろう、と言っているのに、体が動かない。
僕は本能には抗えなくなっていた。

会長の幸せそうな寝顔が見える。
何かささいなこと、本当にささいなことでも僕は会長のことを知りたかった。





どれくらい時間が経っただろうか。
会長が起きる前に仕事に戻らないと、とまた自分に言い聞かせる。
が、相変わらず僕の視線は会長から一向に動こうとしない。

厚い胸板、りりしい腕…


これから会長に抱きしめられる権利を持つ人が現れるかもしれない。
いや、現れるはずだ。
僕は、その知らない誰かさんをうらやましく思った。

***

「お、椿」

俺は少し離れたところにいる椿に手を振ってみる。
しかし、返事はなかった。

「何無視してんだよー」

それでもやはり、なかった。
というより、むしろ椿は俺からどんどん離れていく。

「椿!」

俺は状況がよく飲み込めなかったが、嫌な予感がして椿の名前を叫んだ。
でも椿の姿が小さくなっていくばかり。

「椿、行くなよ、椿」

無我夢中になって、手を伸ばし、声を張り上げる。

「椿いいい!!!」

愛しい人が自分から遠く離れて行くのが怖くて、切なくて……




…………

………

……







「会長!?」

俺は先程遠ざかっていってしまった人物の声で目が覚めた。

「ん…んあ…?椿…?」

どうやら夢だったようだ。
安堵が一気にのしかかってきた。

「え、あ、いや、はい」

なぜだか椿は妙に焦ってるような…気のせいか?

「会長、あ、あの、」

椿はうつむいて、恥ずかしそうに言葉を紡ぐ。

「その…手…」

寝起きで気づかなかったが、俺は椿の腕を掴んでいた。
なるほど、さっきの「会長!?」ってのはそれに驚いたからか。

「悪い」

俺は素直に手を離したが、できればもう少しだけでも触れていたかったな、心の中で思う。
なにはともあれ、

「椿…近くにいてよかった…」

俺は椿を抱きしめる。

「会長…?ど、どうしたんですか…?」

「お前が俺のとこから離れてしまったような気がして…」

「え…?」

思わず気持ちをストレートにぶつけてしまいすぎた。

「いやなんでもない…忘れろ」

俺は慌てて椿を離した。
椿のことだから、男同士でこんなこと…とか思われかねないからな。

***

このことを道流に言ったら、告白する絶好のタイミングだったのに!とか言われるはずだ。

勿論、言われなくてもそんなことは分かってる。
でもしなかった。




だって、俺の気持ちを伝えるのには、まだ少し早いから。

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