SketDance

□なでなで
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「かいちょーなでなでしてくださいー」

デレた様子で椿は安形のガッチリした胸に飛び込む。

いつもは生真面目で、甘い言葉など殆ど発しない彼がどうしてこうなったのか。
事の始まりは数時間前にのぼる。

***

「椿ちゃん」

「はい」

「俺、特製栄養ドリンク作ったから飲んでよ」

「え?どうしてですか…」

「実はさー安形に頼まれたんだ」

「会長が?」

「うん。椿ちゃんが近頃疲れてるからなんか作ってやってくれないか、って頼まれちゃって」

「本当…ですか?」

照れたらしく、先程よりも少し下を向いて椿は聞いた。

「本当だよーほら、これだから!絶対飲んでよ!」

そう言って榛葉は返事を聞かずにとっとと場を離れてしまった。




「………」

取り残された椿は榛葉から手渡された物を見る。
赤い水筒。榛葉の物だろうか。

『で…でも会長が僕を心配して…って あ…胸が苦しくなってきた』

その気持ちが誰かを好きになったものだとも気づかない椿。
せっかく榛葉さんが作ってくれた物だし…と思いながら勢いよく栄養ドリンクを喉へ流した。


***

椿が目を覚ますと、ふかふかの物体が体を包んでいた。
見たこともない天井。
横を見ても、全く見覚えのないところだった。
しかし、誰のかとは分からなくのも、人の家にいることは椿にも分かった。


ガチャッ

誰かが部屋に入ってきた。

まさかだが…僕は誘拐されたのか?
色々考えながらも椿は戦闘体勢を取ろうとする。

しかし、なぜか腕に力が入らない。体が自由に動かなかったのだ。手も足も縛られていないのに…

そう思った時、

「椿」

ほぼ毎日聞く低くて色気のある声がした。
声の主はかの有名な開盟学園生徒会長、安形だった。


***


安形は前日、榛葉にあることを相談していた。

椿に、中馬先生の<デレさせる薬>をどうしたら疑いなく飲ませられるかだった。
その薬とは、まず眠らせ、起きると徐々にデレていく、という物。
安形は前々から先生に頼んでいたのだ。

なぜこのようなことをしたのか。
安形には、椿が自分のことを特別な眼差しで見ていることを見抜いていた。

椿は自分が好きで
自分も椿が好き。
でも、椿は純粋なため、イキナリすると怯えてしまう。
今回の件は安形なりの精一杯の配慮だった。

***

ここで冒頭に戻る。

安形の思惑通りデレ始めた椿はいつもじゃ考えられない行動を繰り返した。
チューして下さい、や先程のようになでなでして下さい、など。



「よしよし、」

椿の望み通り、わしゃわしゃと髪を撫でる。

「もっと!」

もう一度する。
撫でながら安形は問うた。

「なあ…椿」

「かいちょー」

薬のせいか、椿とコミュニケーションがあまりとれない。
それでも安形は続ける。

「お前、俺のこと好きか?」

分かっているが、一度確かめておきたかったこと。

「好きですから!」

顔を紅潮させて椿は即答した。

「椿可愛い。俺も椿のこと大好きだぜ」

「かいちょー僕も…て…し……」

椿の言葉が途切れ途切れになってきた。

「かっかっか。ちょっと効きすぎちゃったか」

今にも眠りそうな椿に対してにやにやしながら安形は言う。

「次は何してほしい?」

「なで…で……」

「大好きだな、それ…」

「かいちょー…………すぅ…

***

「ほーら、お前の望む通りいくらでも撫でてやるよ」

寝てしまった椿の髪を何度も撫でながら話しかける。

「ほんとに…も少し素直になれねーのか」

文句を言いながらも、安形は目の前のものをいとおしむかのよう。

「でも…今はお前をいくらでも自由に操れる」

そう言って安形はかっかっか と小さく笑った。

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