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□昼下がり
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昼御飯の時間を知らせる鐘がいつもと同じ時刻に鳴った。
と同時に、俺のところにブサイクが来た。
どうせ一緒に食べるんだし、なんでだろう?
「明久」
某ブサイクは異様に真剣な顔をしていた。
「話がある」
「話…?」
こいつって何かに思い悩んだりするタイプの人間だったっけ?
僕には好き勝手に生きてるようにしか見えないけど…ってあ!
そっか、霧島さんのことか。
僕達から見ると二人の関係はすっごく良好に見えるんだけど。
「雄二も案外大変なんだね」
「あ…いや、うん、まああながち間違ってない」
雄二が戸惑った。
…そんなに辛いことを考えているのだろうか?
よし、ここは僕がどうにかしよう。
「ここじゃあなんだし、屋上で食べながら話そうよ」
「ああ、わりい。でも明久、お前昼飯ないだr「今日は塩があるよ!」
僕は満面の笑みで答えてやった。
だってちゃんと食べるものあるし。
今日こそ、雄二の弁当もらうなんてことはよしたかったし。
***
「無駄に家庭的だよね、雄二って。ブサイクなのに」
「おい、最後の一言いるか?」
僕達しかいない昼下がりの屋上は風を肌で感じることができ、本当に気持ち良い。
雄二はお手製の弁当の包みを開き、僕はサランラップで包まれた塩を丁寧に取り出し………
「あああっ…!」
僕の不注意で塩が風に運ばれてどこかへ行ってしまった。
せっかくのご飯だったのに…
このままだと、今日もまた雄二の世話になっちゃうじゃん。
「どうした?」
僕の声を聞いた雄二が顔を上げる。
気づかれないようにしなくちゃ、気づかれないようにしなくちゃ……
「塩、飛ばされたのか?」
なぜか何も言ってないのにバレた。
「いや、その、うん…」
動揺しながらも素直に答える。
というかここまで来て嘘が言えるほど今の僕は肝が据わっていない。
「しょうがねえな、」
そう言って雄二は僕の昼飯になるおかずを一つ一つ、丁寧に自分の弁当箱からつまみ始めた。
「雄二、ほんとにごめん!」
・・・
今日も結局雄二の世話になってしまった。
「俺は別にいいけどな」
「うーん、いっつもしてもらってるから…なんか一つだけ雄二のパシり、聞いてあげる」
僕は軽い気持ちで言ったのだ。
そう、本当に軽い気持ちで。
「それ、ほんとか!?」
いきなり雄二が気持ち悪いくらい(実際気持ち悪いけど)笑顔になった。
その表情に少し胸が苦しくなったのはここだけの話。
「ほんとだよ」
「じゃあ……今俺の側に来て目を閉じてくれ」
ほんの一瞬考える素振りをしたあと、雄二は僕の目を真っ直ぐ見て言った。
「なんか雄二、今日らしくないけど…まあいっか、僕がそっちに行けばいいんだよね?」
まあいっか、と言ってみたものの、内心はまだ、らしくない雄二のことで一杯だった。
それでも言われた通り雄二の側に行き、目を閉じる。
すると、何か柔らかいものが唇に当たった。
なんだろう、この今までに味わったことがないくらい優しい感触は。
一瞬で終わった快感に溺れながらも目を開ける。
目を開けた先には、耳を真っ赤に染めて、頭を抱えた雄二がいた。
そして、僕はそこで初めて雄二が僕にキスしたことに気づいた。
その行為の理由が分からず、ガン見していた僕の視線を雄二察知し、振り返った。
「悪い、明久」
「いや、別に…大丈夫…」
大丈夫だというのは紛れもない事実で…って…
もしかして僕…
いや、やっぱりそう考えるのはよそう。
「雄二、教室で行ってた話したいことって何?」
本能で危険を感じたため、僕は無理矢理話題を変える…というか戻した。
「ああ、あれは…その…」
「ほんとにらしくないね、今日の雄二」
「あーもううるせえ!俺はお前のことが好きなんだよ!」
……え?
待って、さっき僕が言ったこと、訂正。
僕は自分で墓穴を掘るような話題を振ってしまった。
そんなことより雄二の口から有り得ない言葉が発せられたこと。
雄二が、僕のことを、好き?
「僕も、好きだよ」
ブサイクだけど。
僕を散々利用するけど。
ブサイクだけど。
「…明久が思ってる『好き』とは違う」
「じゃあ、どういうの?」
男女間には恋愛的な意味も、友情的な意味も『好き』という言葉が存在する。
でも、男同士には友情的な意味しかないじゃないか。
「まあ…恋してるって意味だ」
…またも、訂正。
僕の住んでる世界にはまだまだ未知なことが沢山あるらしい。
もう一度、今の状況を整理してみる。
雄二は、僕のことが好き。
恋愛的な意味で。
だから…
だから、恋人になってもらいたいとか…?
でも、僕もさっきのキスは決して嫌ではなく、むしろ気持ち良いと感じてしまった。
例えば他の男子にさっきの雄二と同じことをされたら僕はどう思うだろうか?
まず、久保君。
空想すらできない。
次に、ムッツリーニ。
絶対拒否する。
最後に、須川君。
吐く。吐く。吐く。論外。
てことはやっばり、
「僕も雄二のことが好きなのかもしれない」
「かもしれないってどういうことだよ」
「まだ確信は持てないんだ。でも、雄二のキスは嫌じゃなかった。だから。」
いつもからは予想できないくらい雄二は真面目に僕の話を聞いてくれた。
「そっか、」
「うん」
「じゃあ…俺はそれを確信に変えてみせる」
そう言った時の雄二の含み笑いで、もう既に確信を得てしまったというのは秘密だ。