捧げもの、頂きもの

□もらったぬくもり
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十二月、さえぎるものがない駅前は寒い。白い息が晴れた先にある輝二の姿を、こっそり見つめていた。
黒い学ランのままで、コートさえ着ていない。寒いことは寒いのか、少し肩をすくめて両手をポケットに入れていた。唯一といえる防寒具、ショコラ色のマフラーはこの前私が誕生日プレゼントに贈ったもの。手作りでもなんでもなかったのだけれど、輝二はとても優しい顔をしていた。
本当に大切な人から「ありがとう」と心を込めて言われたとき、胸の奥から一番強くこみ上げてくる言葉は「どういたしまして」じゃなくて「ありがとう」なんだ、って。彼が教えてくれるのは、いつだってそういうあたたかいこと。
五月、私の誕生日にもらった紫石の花の細工がついた髪飾りは、服や防寒具の脱ぎ着が多いシーズンだから、引っかけてしまうのが怖くて今は大事に仕舞ってある。いつになったらまた使えるかな、早くあったかくならないかな。
私の視線の先で、輝二はポケットから携帯を取り出した。少し目を細め、キーをいくつか押す。途端に私の携帯が鳴り出した。慌てて取り出す私に、輝二の視線が痛い。
『いつまでそこにいる気だ』
「あ、あはは…バレてた?」
『バレてたもなにも…』
「格好いいからつい見とれちゃって」
『…お前、誉めとけばいいと思ってるだろ』
「本心だけど?」
しばしの沈黙の後、切れる通話。携帯を下ろす前に手を掴まれた。口元をマフラーに埋めた輝二が、不機嫌そうに言う。
「マフラー、買いに行くんだろ」
「うん」
今日は私のマフラーを探しに、駅前で待ち合わせをしていたのです。すぐに駆け寄るつもりだったけれど、つい、ね。
輝二の手が思いの外あったかくてすり寄ったら、指を絡めるように手をつなぎ直してくれた。鼻の頭が赤いのは寒いからだろうけど、頬が赤いのは誤魔化せてないよ?
「…なに笑ってんだよ」
「ううん、幸せだなって思って」
「そういうことは、今俺がどれだけ幸せか知ってから言え」
マフラーが、二人の間で揺れる。



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