捧げもの、頂きもの

□それはまるで、子供の独占欲そのもので
1ページ/2ページ



きっかけは、些細な、本当に些細なことだった。

今日も今日とて、森のターミナルを目指しデジタルワールドを歩き続けている。
強い日差しが容赦なく照りつけ、体力は削られる一方。
道には日陰どころか木や建物すら見られない。
トレイルモンの走るレールが一本通るのみ。

いつまで経っても変わる気配のない景色に、みんな言葉にこそしないが苛立ちが募っていた。

内心、このままではマズいと思いつつも、これと言って解決策があるわけでもないのも事実。

結局、自分への言い訳と自問自答を繰り返し、拓也は歩き続けた。

この時唯一の救いだったのは、グロットモンが攻め込んで来なかったことだろう。
体力も気力も皆無に等しい状況では、戦おうにも戦えない。



日が暮れるまで歩き、適当な場所で野営の準備に取り掛かる。
食料もなんとか調達し、くじ引きで見張りの順番を決め、最初の見張り以外が眠りに落ちた。

最初の見張りは本来ならば友樹だったのだが、一番体力を消耗していることもあり、拓也が請け負うことになった。
故に、拓也は今現在、必死に欠伸を噛み殺しながら焚き火に小枝を放っている。

揺らめく炎を眺めながら、拓也は背後で誰かが起き上がった気配を感じ取った。
振り向いて視界に入ったのは、暖かな炎に照らされた輝二の姿。
先程まで寝ていたためか、髪は解かれ、バンダナもしていない。
未だ寝ぼけたような、普段は見られないあどけない表情で、輝二は拓也の隣に腰掛けた。

普段見ることのない輝二の表情に、拓也は一瞬動悸が激しくなる感覚をうっすらと覚えた。

それが何を示すか、意味するかに気付かぬまま、輝二に声をかける。

段々覚醒してきたのだろう、他愛ない話題でも、返ってくる答えはしっかりとしているように思える。

その様子を少しばかり残念に思いながら、拓也は輝二の横顔をじっと見つめる。

淡いオレンジの光に縁取られた肌は思いの外白く、髪と瞳の深紺は、相反する橙を孕み幻想的に煌めいている。
切れ長の瞳は物憂げに炎を見つめ、形の良い口唇は緩く結ばれている。

見つめているだけで、顔に熱が集まるのが分かる。


あぁ、なるほど


動悸が激しくなったり、顔に熱が集まったり、自身の違和感の理由を思いつき、そして案外あっさりと腑に落ちた。

それと同時に自覚したのは、輝二に対する想いだけではなく、手に入れたいというどこか黒い感情。

感情の全てを悟られないように、声を押し殺して拓也は囁くように宣る。



「絶対に、俺のモノにするから」

(覚悟しておけよ?)


Next→懺悔
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ