「…俺は、何故叩かれたんだ」
袴の裾をひらめかせて駆けていく椿の後ろ姿を見詰め、思わず呟く。 何か怒らせるようなことをしたか? …思い当たらない。 首を傾げつつ門にまた近付いて、待っていた使用人に声をかける。
「もうよろしいのですか?」 『ああ』
彼女は先程のやり取りは見ていなかったようだ。 何となく、安心した。 いたいけな少女を怒らせるところは、あまり見られたくもない。
使用人の案内について中に入る。 廷内は和風のつくりで、視界に入る日本庭園が綺麗だ。 日本はいいところだなと思いながら、奥の部屋へ通された。
* * *
鏑木は近々海外へ進出したいと考えている日本の有力者だ。 以前、イタリアに彼が来ていたことがあり、その時に傘下のファミリーづてに知り合った。 ボンゴレとは、協力関係を築くことになるだろう。 当主である鏑木透は中身も申し分ないようだから、なんら問題もない。 出された緑茶を飲みながら、目の前の男を見詰めそんなことをかんがえていると、先程案内をしてくれた女が盆を手に部屋に入ってきた。 そして机にのせられた皿にのるものに目を引き付けられた。
「これが和菓子か…」
色鮮やかに様々な花を型作っている。
「お気に召しましたか?」 「ああ、…きれいなものだな」 「ここの菓子は、味も絶品何ですよ。職人の腕がいいんです。ここの和菓子をお出しすると、大体商談が纏まるんですよ」
男は笑いながらそんなふうに言った。
「老舗の店で、高級和菓子を主としているんです。あちこちの富豪から注文をうけているようで」 「…店の場所を教えてもらえるか?」 「それほどお気に召しましたか?」 「それもあるが…。実はこの屋敷へは、その和菓子を届けに来た椿に案内して貰ったんだ」 「藤堂さんちのお孫さんですか」 「ああ。だが、少し…失礼なことをしてしまったようで」 「あの年頃の娘は、難しいですからねぇ。うちの娘と同い年ですから、少しわかります」 「どこの国でもそういうものか」
イタリアでも年頃の女は扱いづらい。 よく鈍感だなんだと罵られるのだから困ったものだ。 大体、俺は鈍感などではない。 超直感を持ち合わせて、鈍感はないだろう。 以前Gにそう言ったら苦笑いをされたけれど、何なんだ。
「この…赤い花が綺麗だ。気に入った」
口に運びながら鏑木に言うと、彼はああ、と呟いた。
「それはツバキですね」 「…甘い、な」
菓子ですからね、と鏑木は答えた。
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