HENTAIシリーズ

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もう酔いなんか微塵もなかった。
もう逃げることさえできない。

「チサトは、あの夜のこと本当に覚えていませんか?」
『覚えていません…』
「そうですか…」

部屋がしんと静まり返った。
暫くの沈黙を破ったのは骸さんだった。

「僕の気持ちは、そんなに信用できないでしょうか」
『……』
「…僕の今までの女性関係を間近で見ていたチサトには、きっと信じられないことですね」

仲間として、だったらこの上ないくらいに信頼している。
だけど、そうじゃないから。

『だって骸さん、今まで私のことなんて好きじゃなかったでしょう。今の気持ちが一時の気の迷いなんかじゃないってどうしていえるんです?』
「…言えません」

やっぱり、そうだよね。

「これでは証明のしようもないです。…でも、それでも僕はチサトが好きだ。諦めたくない。それに僕はずっと君が好きでしたよ。言ったでしょう?気づくのが遅かったって」
『そんなの、』

信じられないよ。
だって骸さんは絶対に特定のひとをつくらないで、いつもあそんでいたんだよ。
私だけが特別だなんて、そんなの淡い夢に決まってる。

それなのに。

「好きです。君だけなんです」

そんなにまっすぐな目で、真剣な声で、すがるように言われたら、わたし。

信じてみたくなる。
本当は、信じたいよ。

だって私はずっとずっとずっとあなたが好きだったんだよ。
それでも、あなたは特定の女をつくりはしなかったし、今までの関係を壊したくなんてなかったから決して口にはしなかった。
そばにいられるならそれでよかった。

大切だから、
絶対なくしたくなかったから、言わなかったのに。
一時の甘い夢に過ぎないかもしれないのに。

それでも本当は私、信じたいんだよ。
愛されたくて仕方ないの。

まるで馬鹿な女だと思う。

『…信じて……いいんですか…?』

情けなくなるくらいに震える声。

「ええ。不安になんてならないくらい、愛してあげます」

オッドアイを優しく細めて骸さんが笑った。

『後悔させないで…』
「約束します」

のびてきた骸さんの腕に抱きしめられる。
ずっとこんなふうに一番近くにいられたらいいと思った。





* * *





翌日、ボスの執務室にいくと彼はニコニコしていた。
ニコニコというよりむしろニヤニヤか。

『………なんですか?』
「んー?いやぁうまくいったみたいでよかったねって」
『…もしかしてボスがこのこと広めたんですか?』

昨日の今日でボンゴレ内では私達のことがあっという間に広まっていた。
今朝仕事に来たらすれ違う人という人にニヤニヤした目や生暖かい目や敵意の篭った目やらを向けられて、本当参った。
居心地悪いったら。

だから、一体誰がこんなに広めたのか気になっていたのだ。

「え?俺は誰にも言ってないよ?」

きょとんとしているボスは嘘を言ってるようには見えなかった。
でも、じゃあ誰が広めたのかわからない。
獄寺も山本も広めるなんて不粋なことする性じゃない。
まぁこれはボスにも当て嵌まることだったんだけど。

そのままボスから書類を受け取って、廊下に出た。

暫く歩いていると、目の前に見慣れた房が出現した。

『骸さん!』

ゆっくり振り返った彼は、私を見つけると優しく微笑んだ。
その仕種がいやに様になってるというか、柄にもなくどきっとした。

「チサト、おはようございます」
『おはようございます。骸さん、聞きました?私達のことがすごく広まっちゃったみたいなんです。しかもあることないことオヒレがついちゃってて。一体誰の仕業かわからないんですが…』
「ああ、それなら知ってますよ」
『え?』
「僕が広めました。嬉しくてつい」
『おまえが犯人かああああああああ!!てゆうか、ついじゃないでしょうがっ!』
「いいじゃないですか」
『よくないです!皆に変な目で見られるし…!何で皆あんなニヤニヤしてるんですか、何言ったんですかっ!?』
「何って…昨夜の僕とチサトのムフフなことを詳しく」
『は!?なんですかそれ!昨夜はプラトニックな感じだったじゃないですか!そんなことしてないですよ!』
「ええ、主に僕の妄想です」
『おい』

何だろう、どっと疲れた。
というか骸さんの変態は治らなかったのか。

『この変態』
「…でも、そんな僕も好きなんでしょう?」

にっこり笑って骸さんが言う。
確かにそうだけど。

『…はぁ、もういいです』
「え、怒りました?」
『怒ってません。…私だって、これでも浮かれているんですよ?しょうがないからゆるしてあげます』

骸さんは嬉しそうに顔を輝かした。
骸さんの嬉しそうな顔見れたからチャラにしてあげよう。
なんて考えていたら。

「デレきましたあああああ!!」
『台なしだよ!』





* * *





チサトとほぼ入れ代わりで山本が執務室に入ってきた。
書類を俺に渡すと、そのままソファに座り込んだ。

「なぁツナ」
「ん?」
「何で骸は最近までチサトが好きだって自覚してなかったんだろうな?」
「…多分、長いこと近くに居すぎたんだと思う」

近すぎて、当たり前になっていたから気づけなかったんだと思う。
だって、本人達以外はそんなの気づいていたし。
骸も案外鈍かったんだなぁ。

「…まぁ、何はともあれ、よかったよね」
「でも変態は治らなかったのな」
「アハハ、確かに」

でも、そんな骸でもチサトならきっと受け入れていけると思うんだ。

だからどうか、末永くしあわせでいてほしい。







 

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