HENTAIシリーズ

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『むくろさんー』
「早く酔いをさましてください」
『しつれいな!よってないってば!』
「どこがだ」

軽くデコピンしてやるとあたっと叫んで額を抑えうずくまるチサトを見下ろして、溜息をつく。
自室にまで連れて来たのはいいものの、どうやって話をしようか。
酔いがさめれば一番だが、それもなかなか難しそうだ。

『むむむ、むくろさんいたいですぅ!で、でぃーぶいでうったえるぞ!』
「おや、家庭内ですか。嬉しいですね。ですが暴力ではありません。愛のムチです…クフフ…」
『あい…』
「ええ」
『うふふー!むくろさんのあいですね!わたしもむくろさんだいすき』
「知ってますよ」

彼女が僕をどう思っているのかなんてとっくに知っている。
チサトの本音なんか隠されていない。
あの夜に、散々好きだと言われた。
チサトは覚えていないと言うけれど。
チサトの頭を撫でてやると気持ち良さそうに目を細めた。
何故普段はあそこまで拒むんだろう。
酔った勢いなのかもしれないとさすがに疑いもしたが、どうやらそうではないようだ。

「チサト、」
『はい?』
「何故いつも僕に応えてくれないんですか?」

キョトンと僕を見上げて、にっこり笑って首に抱き着いてきた。
ああ、やっぱり今の彼女には聞くだけ無駄かと思った時、耳元で小さく呟かれる。

『むくろ…、わたしはね、…よわむしだからこわいんです』

ソファの上に座った自分の上に跨がって首に手は回したまま、少しだけ距離を取って目を合わされた。
そのままコツンと額を合わせて目を瞑るとチサトはもう一度繰り返す。

『…こわい』
「何が?」
『わたし……今までと同じでいられなくなるのが怖い。恋人になったら、いつか終わりが来るかもしれない。骸さんはただの遊びかもしれないって、いつも悩まなくちゃいけない。でも今のままならずっと一緒にいられるかもしれない』

目と目を合わせてチサトはふわっと笑う。

『私は、骸さんが好きです。一番好き。家族として、友人として、仲間として…愛するひととして。一番愛しくて、愛してるひと。だからこそあなたに捨てられるのが怖いんです』

そう吐き出したチサトの声は震えていた。
いつの間にか酔いもさめていたのだろう。

「チサト…、もう、酔いなんかさめてますね?」

チサトは一度目を瞬かせてから頷いた。






 

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