HENTAIシリーズ

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ボスからの書類を手に骸さんの執務室に向かうと、ちょうど中からM.Mが出てくるところに出くわした。
営業スマイルを張り付かせる。
作り笑いは昔から得意だったりする。

『こんにちは、M.M』
「…ああ、あんた」
『もう帰るの?』
「ええ。目標は達成したし」

どうせまた骸さんに何かをせびったんだろう。
がめつい。
ヴァリアーのマーモンといい勝負なんじゃないか。
顔には一切出さずすれ違う数歩手前で、彼女がピタリと止まった。

「そういえば、あんた骸ちゃんのことふってるらしいわね」
『……まぁ、そうなるけど』
「何故?骸ちゃん嘆いてたわよ」
『…あなたには関係ない』
「ええそうね。関係ないかもね」

数歩また歩いてすれ違う間際彼女がそっと囁いた。

「今の距離が一番ラクなんでしょ?でもそれって…卑怯ね」

足を止めた私の後方で、でも私はそういうの嫌いじゃないわよ、と彼女が言っていたのを拳を握り締めて聞いていた。
数秒そのまま立ち続け、大きく息を吐き出した。
今は仕事中だから、私情は持ち込まないようにしないと。
骸さんの執務室の扉を数回ノックして、中に入る。
机で書類と向き合っていた骸さんが私を見て嬉しそうに笑った。

「チサト、ご苦労様です」
『これ、ボスからです』

差し出した書類を受け取ると、目を通して眉を寄せる骸さん。
書類の内容が面倒だからわからなくもない。

『…それにしても珍しいですね』
「何がですか?」
『骸さんが何も言われなくてもちゃんと仕事するの』
「……何故だと思います?」
『ええっと……M.Mに貢ぎすぎて懐が寒くなったとか?』
「みつ…、はぁ…チサトは僕を何だと思ってるんですか。貢いでなんかいません。報酬ですよ、報酬。それに僕がちゃんと仕事してるのは、チサトが勤勉なひとが好きだと言ったのを聞いたからです」

そんなこと言ったっけ?

『…あ、もしかして、』

昨日廊下で同僚とそんな話をしたような。
言い寄られて面倒だったから適当あしらっただけなんだけど。

『…聞いてたんですか?』
「クフフ」
『否定しないんですね。…もしかしてつけてたとか…さすがにそれはない…か…』

サッと目を逸らした骸さん。

『な…、信じられません!そんなことばっかりしてるから頭がおかしくなったって言われるんですよ!』
「いいんです、好きに言わせておきなさい」
『私が嫌なんです!』

キョトンとした顔を向けられた。

『骸さんが、変に言われるの…嫌なんです…』
「何故?」

骸さんが近づいてきて、きゅっと手を握られた。

『何故って…そんなの、』
「そんなの?」
『…言ったじゃないですか。私は骸さんが一番大切なんです…』
「でも僕の気持ちには応えてくれない」
『…恋人になんか、なりたくな…』

スッと骸さんの顔が近付いてきて唇が重ねられた。
そっと離れて、赤と青の瞳とぶつかる。

「でも、キスは嫌がらない。…これって、結構ひどいことですよ」
『ごめんなさい。そう、ですよね』

曖昧なまま、すごすのは駄目だ。

『私は、やっぱり応えられません。もう、こういうのもなしでお願いします』
「え…」
『すみません、失礼します』

言って部屋を飛び出した。





* * *





コンコンと扉を叩くと、すぐに返事が返ってくるので中に入る。
ボスがいつものように椅子に座っていた。

『ボス…私、』
「うん、大丈夫。わかってるよ。そんな気はしてたんだ。…異動だよね?」
『はい』

やっぱりもう、骸さんの補佐を続けていくのは無理だ。

「いいよ」
『ありがとうございます』
「でも、条件がある」
『条件?』
「うん。今夜、―――」

ボスの台詞に私は頷きを返した。





* * *





『―――で、なんかわかんないけどやっちゃったんれすよー』
「あはは!マジかー」
『ちょっとわらいごとじゃないれすーやまもとさんふざけてるとなぐりますよう』

うふふえへへと笑いながらチサトさんがグラスをあおいだ。
隣で笑いながら同じく酒を飲んでいる山本を、反対に座った俺と隼人が呆れ混じりに眺めていた。

異動の条件として一緒に飲みに行こう!と提案したのにチサトさんがのってくれたのでこんなふうに四人で飲んでいるけど、いつもの彼女とのギャップの驚いてしまう。
本当はそれとなくこの場で骸との最近のことを聞き出そうと思っていたのに、酔いがすぐに回ったチサトさんは簡単に口を割ってくれた。

「チサトさんってお酒に弱いんだね」
「だからお持ち帰りされんだよ」
『ごくでらさん!ふざけたこといわないでいただけますう?』
「本当のことだろ?」
『ちがいますからー。むくろさんだからついていったんですー』
「え、そうなの?」
『そうれすよー』
「骸のこと好きなの?」
『すきれすよー』

俺は、隼人と山本と顔を見合わせる羽目になった。
だっておかしい。
好きなら付き合えばいい。

「じ、じゃあなんで付き合わないの?」
「言い寄られてるんだろ?」
『だって、おなじはいやじゃないれすか』
「同じって「何をしてるんです?」…あ、骸」

不機嫌丸出しで骸が立っていた。

『むくろさんー!』

言うなり骸に飛びつくチサトさんをポカンと見ていた。
いつもと態度違いすぎる。

「いい子ですからチサトはこっちに来てなさい。…で、君達は何をしてるんです?」
「え?いや…まぁ、なんていうか」
「おまえらのこと聞いてたのなー」

あっはっはと笑いながら山本は空気を読まない。
ああわかった。顔に出てないだけで山本も結構酔ってるな。

「余計な詮索はやめてください」
「十代目になんて口のききか「いいよ隼人」

ぐって堪える隼人に苦笑をしてから骸に向き直る。

「本当は俺だって二人のことに突っ込む気はなかったよ。…でも、ちょっと事情が変わったんだ」
「何です…?」

山本にも隼人にも言っていなかったけど、仕方ない。

「チサトさんが昼間、俺のところに来て、言ったんだ」

酔っ払ってへらへら笑ってるチサトさんに心の中で謝る。

「チサトさん、異動したいんだって。どうしても」
「な…そこまで…」
「骸、そのままでいいの?」
「良いわけ、ないでしょう!」

チサトを小脇に抱えると骸はスタスタと出て行った。






 

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