HENTAIシリーズ
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今から8年前、私は骸さんに出会った。
黒曜中学校は、治安が悪いことでもっぱら有名だ。
制服をまともに着ている人も、髪を染めていない人も、数える程しかいない。
かくいう私は、その少ない中の一人だ。
真面目といえば真面目だったのかもしれないけど、生徒会に所属している手前、という感じだった。
私は、私の周りにある日常に嫌気がさしていた。
くだらないものしかない日常に。
そんな私に気づいた彼が、言ったのだ。
僕と一緒に来ませんか、と。
私は差し延べられたその手をとった。
だからこそここにいる。
* * *
はぁ、と最近もっぱら多くなった溜息を一つつく。
最近、つらい。
仕事をするのが、つらくてしょうがない。
だから自然と溜息も多くなってる気がする。
「悩み事ですか?相談のりますよ」
てめぇが原因だよ浮かれ南国果実。
そう言いたかったけど、さすがに言えなかった。上司だし。
『お気遣いなく』
骸さんに言い寄られるようになってもう随分経つ。
何度も何度もめげない骸さんには正直驚かされた。
そして妙に押しが弱い私は、たまに彼に手を出されていたりもするのだ。
つまり、そういうことをしてる。
関係を持ってしまってる。
これはゆゆしき事態だと思う。
そして更にダブルパンチで骸さんに好意を寄せている女達からの嫌がらせもあったりする。
どんどん私の精神力が擦り減っていくのを感じる。
「…心配なんですよ」
伸ばされた手が私の額にかかっている髪をよけて、そのままするりと鎖骨まで落ちていく。
『…心配されるようなことじゃありませんから』
スッと身を引いて手から逃れると、骸さんは眉を下げて少しだけかなしげに笑って、つれない娘だ、なんて言う。
娘、なんて歳でもないのだけれど。
『それより、早く溜まってる書類をどうにかしてください。ボスがお困りでした』
「おや、ボンゴレの為にそのようなことを言いますか」
『そういう訳じゃ…』
骸さんが近づいてくる。
私はその分後ろへ下がる。
暫くそうしていれば、壁に背がぶつかった。
骸さんと壁に挟まれる。
「チサトにとっての一番って誰なんでしょうね?」
『そんなの、』
「そんなの?」
『骸さんに決まってます』
予想外だったのか、彼は目を見開いて数秒そのままだった。
それからそっと微笑んだ。
あんまり綺麗に笑うから、今度は私が固まる番だった。
「嬉しいことを言ってくれますね」
私、今顔が赤くないかものすごく不安だ。
なんでこの人は、こんなにも。
「チサト」
頬を撫でられ顔をあげると、骸さんの双眸に私が映っているのが見えた。
それが、今まで骸さんにたぶらかされて無残に捨てられていった女達の情欲に満ちた顔とだぶってみえて、嫌気がさす。
「…キスしてもいいですか?」
頷くわけにはいかない。
けれど嫌だなんていえない自分がひどく嫌いだ。
わざわざきかずに奪われることを期待している私は、もっと嫌い。
「――なんて、嫌と言われてもしますけど」
『…んっ』
噛み付くように重なる唇。
押し付けられた唇に舌が触れたと思ったら、骸さんが眉を寄せて離れた。
「…邪魔が入りました」
『え?』
呆気にとられている内に身体も離れていく。
彼の視線の先は扉で、私もそれを眺めていたら、がちゃりと扉が開いた。
「骸ちゃん!」
姿を見せたのは見知った顔だった。
赤毛のこの女性は今日もブランド品ばかりで着飾っている。
「…と、あんたもいたのね」
『今は骸さんの補佐なので』
あからさまに不機嫌そうに私を見つめるM.M。
はっきり言って、あまり彼女は好きではない。
彼女は、クロームや犬や千種と違って、骸さんを心から敬っているわけではないから。
だからと言って、私が彼等と同じ枠組みに入っているとは到底思えないのだけれど。
私は、彼等のように過去を共有しているわけではない。
その点ではクロームも私と同じような立場かもしれないけれど、彼女とわたしとは圧倒的な違いがあるのだ。
私は、彼女のように骸さんがいないと生きていけないわけではない。
彼女のように骸さんの器となることもできないのだ。
そして、あのフランだって、強力な術士としての才能を持っていて役に立っている。
だとしたら、私が彼の傍にいられる理由ってなんなんだろう。
「しばらくこっちにいることにしたから」
そう言って骸さんの腕に抱き着き、バックをねだっていた。
それに白々しい笑顔で答える骸さん。
『…骸さん、私もう行きます。書類、お願いしますね』
不愉快になる気持ちを抑えて笑顔で言った私は立派だと思う。
* * *
出て行くチサトの後ろ姿を見送って、ふうと息を吐いた。
「来るタイミング悪かった?」
「そうですね」
「ふうん」
「それより、何の用件です?呼んだ覚えはありませんが」
「骸ちゃんに本命ができたって噂で聞いたから見に来ただけ。…にしても、まさかあの女とはねぇ」
「彼女と仲悪いんですか?」
「別に嫌いではないけど。好きでもないし」
「クロームは?」
「嫌い」
全く変わらない女だ。
けれど、他の女と違って金で割り切ってるあたり使い勝手がいい。
「チサトをいじめないでくださいね」
「はいはい」