HENTAIシリーズ

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勤務中にもかかわらず自由な上司のおかげで仕事を抜け出すことに成功したので、たまには一人で優雅にランチでもしようと、おいしいともっぱら噂のイタリアンのお店に向かったのが、ちょうど20分くらい前だった筈。
…なのに、なんで目の前にこいつ…じゃなくて骸さん(いや、もうこいつでいいよね。最近の行動から考慮すれば至極当たり前の判断だと思う)がいるんだろう。
ニコニコして、当たり前のように向かい側の席に座ってやがる。

『なんでいるんです?さっきの女の人はもういいんですか?』
「いいんです」

…このいいんです、はどういう意味なのだろう。
あの女の人がどうでもいいということ?
それとももう用済み…私と別れた短時間の間に終わったんだろうか。
だとしたらどんだけ早漏なんだ。

「…今何か失礼なこと考えていませんでした?」

どうやら顔に出ていたらしい。

『いえ…』
「僕の名誉の為にいいますが、断じて違いますからね」

私が考えてたことは確実に彼に筒抜けになっていたようだ。
ごまかすように水の入ったコップを持って、意味もなく回し氷がカランカランと音を立てるのを聞いていた。

「チサト」
『何です?』
「僕のこと…嫌いですか?」

予想外の質問に眉が寄った。

『何言って…』
「結構、真面目にきいているんですが」
『……嫌いじゃ、ないですよ。嫌いだったら、こんなに何年も一緒になんていません。学生の頃からの仲ですし、何を今更…』

中学生の時、彼らと共にいることを求めたのは、私。
高校時代も、ボンゴレに入って彼の下で働くことを選んだのだって、結局は私だ。
私の意思だった。
だって私は、骸さんに憧れ、感謝してるから。

「では…好きですか?」
『どういう意味で?』
「きかなくてもわかるでしょう」
『…私は、骸さんの恋人には、なりたくないです。絶対に』
「…そう、ですか」

いつも自信にあふれた表情の彼が、悲しそうに呟くから、胸がぎゅっと痛んだ。
そのまま訪れた沈黙に気まずさを感じていると、店員がにこやかに注文していた料理を持ってきた。
二人してもそもそパスタを食べる。
お昼時で賑わう店内で、私たちは浮いてしまってるような気がした。
おいしいと噂のお店だったけど、あんまりおいしく思わなかった。





* * *





二人で並んでアジトに戻る間も、なんとなく気まずい空気に包まれていた。
すれ違う女の子たちの骸に向けた熱視線を感じて、逸らすように道沿いのショーウインドーに目をやった。
季節の変わり目だからか、新作の洋服ばかりが並んでいる。

「チサト」
『はい?』
「…手を繋いでもいいですか?」

不安そうに揺れた彼の瞳を思わず凝視する。
さっきのことを引きずっているのか知らないけど、何で今更そんなことをきくのかわからない。
だって骸さん、初めは覚えてないけど多分同意の上で私を抱いたにしても、二度目はほとんど無理矢理みたいなものだったのに。
手を繋ぐくらいなんだっていうの。
繋ぎたいなら、わざわざ聞かずにすればいい。
本当、骸さんってわけわからない。
最近は、特に。

『…好きにしたら、いいじゃないですか』

そんなふうにしか答えることができない私は、なんてかわいくないんだろう。






 

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