拝啓、大嫌いな『仲間』たち
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「はーい自己紹介ターイム。新入生くん、どうぞー」
前世と合わせて人生36年。まさかこんな人種に出会うとは思っていなかった。
「あらあら緊張しているのかしら?伊代ちゃん、1年生を怖がらせちゃ駄目よ?」
「してないしてない。あたしはただ仲良くしよーって言ってるだけだしー」
俺としては仲良くしよーって言って人をイスに縛り付ける理由を是非とも知りたい。ついでに手錠をかける意味はあったのだろうか。
「うちの伊代ちゃんがごめんなさいね。えーと、何君かしら?」
「柳です」
「そう。よろしくね、柳君。私は武藤佳子(ムトウカコ)。文芸部の副部長で、こっちが――」
「文芸部部長の高橋伊代だよーん。よーろしーくねん、ぶい」
片方はマトモそうな人で、片方は取扱い説明書が必要な人のようだ。
「ところで伊代ちゃん。この間の作品のことなんだけど」
「ん?あれがどーしたのさ」
「あれは弘樹が正臣を傷つけまいとしてわざと冷たくしているシーンなの。愛情が無いんじゃないのよ。むしろ愛情に溢れているの。本当に正臣のことを愛しているからこそ突き放すけど、でも涙を流して眠る正臣を見てついキスをしてしまう……この切ないところが萌えを生むのよ」
訂正。どちらも取り扱い説明書と翻訳機が必要なようだ。
いかん、段々この人たちのペースに飲み込まれているような気がする。落ち着け、俺は文芸部の見学に来たんだ。そう、普段どんな活動をしているのかを見に来たんだ。オプションは少々おかしいが、今のこの状況は悪いとは言い切れない、はずだ。まずは室内の様子を確認。
広めの部室には大きな本棚が4つと、机が5つと、パソコンが3台と、ポットとカップ、お茶菓子が乗った台が1つ。全ての本棚にぎっしりと本が入っていて、パソコンが置かれていない机には、代わりといわんばかりに大量の本が山積みにされている。別に汚いというわけではないが、かなりごちゃごちゃした部屋だ。
「んんんー?新入生柳君はこの部室が気になるのかな?うんうん良いことだよ。存分に見ていってくれたまえー」
「ふふ。ちょっと汚れているかもしれないけど、ゆっくり見ていってね」
・・・縛り付けておいてゆっくりも何も無いと思う。
「かーたん、お茶ー」
「はいはい。柳君も、どうぞ」
『ありがとうございます』
さすがに縛り付けるのはやめてくれた。お、このお茶美味いな。
「んーで、柳君は何でここに来たんだっけ?」
この人の記憶力は大丈夫だろうか?そう思ったりしてしまっている時点でもうこの人のペースに巻き込まれてしまっているのは確定だろう。わかった、もう無駄な抵抗はしない。・・・しかし、仮にも俺は精神年齢36歳のおっさん。15歳の少女に主導権を握られているというのは少々いけないような気がする。
「部員は私たちと、今日は来てないけどあともう1人いるの。活動は基本的に毎日ね。放課後になれば私達がいるから。ああでも、来なくても特に怒ったりなんてしないから大丈夫よ」
要は来たい時に来ればいい、ということか。それは楽でいい。
「ここでは好きなことをしてくれていいの。自分で小説を作ったり、絵を描いてもいいし、ここの本を読んだりゲームをしたり、勉強とかもしてくれて構わないわ」
なんと素晴らしい。その日の活動内容を自分で決めれるなんて他の部ではありえないだろう。
「小説作るならねー、ジャンルは何でもいいよん。純文学・ミステリー・恋愛・サスペンス・ファンタジー・冒険・ライトノベル・ノンフィクション・SF・エロいの、何でもあり。自分なりの作品を作って、あたしたちに献上してくれればOK」
・・・読ませるのではなく、献上なのか?
「ちなみにあたしとかーたんの得意ジャンルはこれー」
数枚の紙を渡された。おそらく彼女たちが書いたものなのだろう。
“タカヤは顔を真っ赤にしてその場に座り込む。
「何で俺こんな顔赤いんだよ……。だってあいつは……男、だろ?でも俺……」
ヒカルの笑顔が目に焼きついて離れない。太陽のような、彼の名前にぴったりな眩しいほどのあの笑顔に触れたい。抱きしめ――”
そこで読むのをやめた。もうこれ以上読まなくともその先の展開は容易に想像できる。
なるほど。この人たちは、世間ではBとついてLとつくものが得意ジャンルなのか。いや、別に俺はそういったものに偏見など無い。ただ、このサイト――失礼、今この場ではあえて明確にはしないでおこうと思っただけだ。ここはそういうことを目指しているわけではない。
『・・・この部のことはよくわかりました。では、後日また入部するかどうかを――』
「入部おめでとー、やーなぎくーん。記念すべき1年生第1号だぜ。めでたいねーひゅーひゅー」
は?
『あの、入部するかどうかは他のところも見てから・・・』
「あら、ここに足を踏み入れた時点でのう入部決定なのよ」
何だと。
『ですが、まだ入部届けは』
「さっき出してきたから問題ナッシング。やったね、1年B組18番柳蓮二くん」
『・・・・・・』
嘘だろう。