拝啓、大嫌いな『仲間』たち

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20XX年○月×日

今日も日記を書こうと思ったが、特に書くことはない。困った。
……ふむ、俺のことについて書き記すとしよう。あって困るようなものでもあるまい。

些か哲学めいた、宗教めいた話になってしまうが、人は前世というものを信じているのだろうか。
非科学的なことは余り信じない俺だが、これだけは信じている。いや、信じざるを得ない。何故ならば、俺は『体験』しているからだ。
どういうことかと説明すれば長くなる。

俺がこの世に生を受けて11年。俺はこの11年間で体験したことが無い、『あるはずのない記憶』が存在している。嘘ではない。本当だ。

6歳、○○小学校に入学。
12歳、○△中学校に入学。
15歳、△□高校に入学。
18歳、J大に進学。
23歳、某大手電気会社に就職。
25歳、交通事故により死亡。

……今振り返ってみれば、25歳という若さで亡くなったこと以外、大して面白味のないありきたりな人生だった。

いやまあそこまでは別にいい。問題はそのあとだ。

死んだはずだった俺はあるとき唐突に目覚めた。目覚めた場所がどこなのかは、その時点ではわからなかった。何しろ真っ暗闇の中にいたのだから。
真っ暗なところだったそこはどこか温かく、安心できて、俺はずっとそこにいたかった。
しかし俺の望みとは裏腹に、俺はいきなり光の世界に引きずり出された――次の瞬間、俺の口は俺の意思などまるで無視して声をあげていた。


「おぎゃー!!おぎゃー!!」


………これでわかっただろう。俺は生まれ変わったのである。産声などあげていたら馬鹿でもわかる。

そんな奇妙を通り越して理解不能な状況を、俺は自分でもわけがわからないほど自然に受け入れていた。それはもうあっさりとごくごく自然に。

あ、転生したのか、と。


そこからはまあ第2の人生だと思って楽しみながら生きてきた。前世ではとうとうできなかった様々なことにも挑戦しながらな。実際楽しかった。

ただ、俺は1つ見落としていた。過去の記憶をもっとしっかり思い出しておくべきだったのかもしれない。いやまあ思い出そうとしても知らなかったことなので意味ないが。
どうしてかはこれから説明する。

前世で中学生、高校生だった時、俺はある漫画雑誌を読んでいた。「週刊少年ジャ●プ」だ。こちらの世界でも売っているものなので、一応伏せ字を入れておく。

ジャ●プは色々な漫画を掲載していて、俺も色々な漫画を読んだ。特にハマったりはしていなかったからどれも印象は薄い。
しかし、だ。


「初めまして、乾貞治だ」


逆光メガネにドリアンを思わせる髪型。そして『乾貞治』という名前。
俺の記憶が蘇った。この記憶が正しければ――俺はある1つの答えに行き着いた。

ここは漫画の――『テニスの王子様』の世界だということに。

まずここで俺の頭はショートしかけたため、自動的にフリーズした。その後2秒ほど固まってから貞治に呼びかけられて何とか復活したが。

こんなにもショッキングというか、驚愕という言葉しか思いつかない状況に出会えば、印象の薄かった漫画のことも思い出すというものだ。
とはいうものの、あまりしっかりと読んでいなかったため、内容は朧気にしか思い出せない。たしか、主人公がものすごくテニスが強い設定で、強敵を倒していくというような話だったと思う。
そして貞治は主人公の先輩――仲間で、かなり主要キャラだったはずだ。

っていやいやいやいやちょっと待て。俺の、転生してから付けられた名前……たしか漫画のキャラの名前ではなかっただろうか。
ということはつまり、俺もテニスをしなければならないということか?テニスには欠片も興味をを抱いていないのだが。
困る。非常に困る。

などと悶々と考えたが、やめた。時間の無駄だ。































とまあ長々と書き綴ってきてごちゃごちゃになったから、ここで要点をまとめておこう。

25歳で生涯を終えた『俺』は、『テニスの王子様』の世界に転生し、俺として第2の人生をスタートしたということだ。

うん、非常にすっきりとした要約になった。

さて、今日の日記はここまでにしておこう。なんだか日記ではない内容になったが、そこは気にしないでおく。





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