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□ろく
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『んー、というわけでー、いつの間にかお手伝いをすることが決まってた零崎です』
ぱちぱちという拍手も起こりません。冷たいですねえ、皆さん。
まず最初にボクは青春学園というこっぱずかしい名前の学校のお手伝いをすることになりました。そうしてもう一回あいさつをしたら案の定これですよ。よろしくーの言葉の一つも返さない。ひっどい・・・・。
『ボクは何をすればいいですか、部長さん』
「手塚だ。ドリンク作りと球拾いをやってくれ」
『了解です』
ドリンク作りですか。やり方は若に聞いたから大丈夫ですね。粉を入れて水を適当に入れてシェイクしちゃえばよかったと思います。
『粉投入ー』
サラサラサラ。
『水注入ー』
ジョボジョボジョボ。
『そしてー、シェーイク』
しゃっかしゃっかしゃっかしゃっか・・・(エンドレス)。
よし、出来上がりですね。・・・うん、一応味見しといた方がいいですよね。万が一ってこともありますし。
ごくごく。
『・・・・・・・・あ、普通だ』
これなら大丈夫なはず。・・・うん、たぶん。
『えっと次は・・・球拾い、でしたね』
「どうした」
『あ、手塚さん。ドリンクを作り終えたので球拾い来ました』
「そうか。すまないが、今試合中のAコートのを頼む。ボールが飛んでくるかもしれないから気をつけてくれ」
『・・・・・・・・』
「何か、質問でも?」
『いえ、その・・・・手塚さんは、マトモな人だなあと』
「は?」
『失礼しまーす』
びっくりです。こんなところにマトモな人がいようとは。テニス部にも変わり種がいるんですねえ。ボクを気にかけるなんて。
Aコート、と・・・・あれ?
『・・・・・・・・・・・・』
ボクは何を見ているのでしょうか。
「菊丸印のステップだにゃ〜!」
「甘いっすよ・・・ブラックジャック!」
あれ、これテニスですよね?何で同じ人が二人もいるのでしょうか。何で打ったボールが暗黒の軌跡を描いているのでしょうか。
『・・・・・まあ、いっか』
テニスをやってる人はやってる人で楽しんどけばいいんです。ボクはボクの仕事をしますし。
ボールちゃーん、ボールくーん、どっこいっるの〜?・・・ボクのテンションが最近おかしくなってきたような気がします。どうしましょうか。
『あ、あっだっ!!』
側頭部にボールが強打。いった、これは痛いです。
「おーい、そっちにボール飛んで行かなかったかー?」
先ほど暗黒ボールを放っていた少年が近寄ってきます。
『・・・ええ、これでしょう?どうぞ』
今し方ボールがぶつかってきたことなどおくびにも出さずに手渡すと、彼は少々申し訳なさそうな表情を浮かべました。
「わりー、ぶつかっちまったか?怪我してねーよな?」
悪い悪いと言いながら彼の目は思いっきり笑っています。そうですか。君がボクにわざとボールをぶつけてきたのですね。それならそうと言えばいいのに。
ボールを手渡すときに彼はかがんでボクの耳に口を寄せ―――。
「・・・・まだまだ楽しませろよな」
などと言って、素知らぬ顔をして行ってしまいました。
まだまだ、ということは、こんな茶番が続くということですよね。それって。
『―――それはつまり、オレへの挑戦状ってことか?』
だったら受けてやろうじゃねえか。まあ、どう転ぼうと最後に勝つのはオレだ。
最低に最低なオレに、勝とうだなんて思うなよ。
夕食。やっと夕食です。まったく、あれから何度ボールをぶつけられたかわかりませんよ。ごんごんごんごんと人の体をサンドバックにして。地味に痛いんですからね。しかも事故を装ってやってくるから余計タチが悪いですよ。
・・・あれ?
『ナル・・・跡部先輩。ボクの分のご飯が見当たらないんですけど』
「てめえの分ならさっきそこにあったんだが・・・運の悪いことに全部ひっくり返って落ちてしまってな。余ってもないから今日は我慢しろ」
おお、堂々と絶食しろって言ってるようなものですよね、それ。
『はあ、わかりました』
ここでぐちぐち言ったって始まりません。とりあえず部屋に行きますか。若の部屋に。
どうしてここで若のかと言いますと、ボクの部屋に行ったって休まりませんから。どうせナルちゃん先輩たちが色々やってるんでしょうし。荒らしとか。
若の部屋っと。ふーん、忍足(謙)と丸井という方たちと同室なんですね。
『若の荷物っと・・・・』
ありましたありました。大きなカバンが2つ。そのうちの1つを開けてみると、予想通り、中身はカップラーメンなどの携帯食です。
ふむ、後でこっそりお湯をもらってラーメンを食べましょうか。それまで若のベッドで睡眠でも・・・・。
「風呂に入ってないのに人のベッドに乗るな、降りろ」
『おや、早かったですね若。もっとゆっくり食べててもよかったのに。というかよくボクがここにいるとわかりましたね』
「お前の浅い考えなんかすぐわかるからな。そのラーメン持って早く行け。外に出といた方が身の為だぞ」
本当にボクのことをよく理解していますよね。でもボクより5歳年下なのにこの言い方はないでしょう。もっと年上を敬ってほしいものです。