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□に
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『・・・とまあそんな感じでナルちゃんから逃げてきたんです。酷いでしょう?』
 「俺としては問答無用でサボりの道連れにしたお前が酷いと思うが」
 『えー、いいじゃないですか。ガラスのハートを持つボクに付き合ってくださいよ、若』
  男2人仲良く屋上でサボタージュ。女っ気がまったくないのが悲しいとこです。
  ボクの隣で寝そべっているのは日吉若くん。ボクの幼なじみで、ボクが殺人鬼だと知っているのに変わらず接してくれる貴重な人です。あ、一応言っときますけど、彼は一般人ですからね。もう1つ、ボクは19歳で彼は14歳ですから。
 「っていうか、跡部さんをナルちゃん呼ばわりするなんてな」
 『普通に名前を呼ぶなんてイヤですよ。ボクのプライドが許さないんですから』
 「いや、お前のプライドなんて知るか」
  相変わらず冷たいですね、若は。昔から彼は子供ながらに恐ろしくドライで、ボクが片割れと一緒に双兄に『お仕置き』されているのを平気で見てましたからね。ある意味異常な子です。
 「朱識。お前、跡部さんに絶対何かされるぞ」
 『?殺気は感じませんが・・・』
 「一般人がそうほいほいと殺気を出せるか、バーカ」
 『む、バカとは言いすぎですよ』
 「うるさい、今はそれは関係ないだろ。あの人この学校における権力は絶大だからな。良くてつきまとわれるか、悪くて全校をあげてのイジメだな」
 『ボクはそんなことをサラッと言える君の方が怖いですよ』
  つきまとわれるのはイヤですね。気持ち悪いしうっとうしいし。
  だからといって、全校生徒によるイジメもイヤですよ。昔見たドラマでは主人公に生ごみとか生卵とかぶっかけられていました。
 〈ピーンポーンパーンポーン〉
 「校内放送か」
 『ですね』
 〈てめーら、よーく聞け〉
  言うまでもなくナルちゃんでした。彼、授業受けなくていいんですかね。
 〈俺様は零崎朱識を”敵”と見なすことに決めた。いいか、零崎朱識は”敵”だ。以上だ〉
 『・・・・・・・・・・・』
 「見事に悪い方向に転んだな、けけけ」
  ものすごくどうでもよさそうに、でも若干楽しそうに言う若。そうですか、人の不幸がそんなに面白いですか。
 「まぁ安心しろ。少なくとも俺はお前に手を出さない」
 『当たり前ですよ。そんなことされたらボク”呼吸”します』
  それこそもう思う存分、後くされなく、好きなだけ。
  ボクは普段あまり”呼吸”しない分、した時はけっこうすごいことになるんですよねえ。前やった時、あの双兄に「溜めこむのはやめようね」って言われたぐらいです。
 「だから、しないって言ってるだろ。その代わり助けもしないけどな」
 『助けたりなんかしたら、若の身の方が危ないですもんね』
  まあその時は容赦なく相手を惨殺しますけど。


 「この最低野郎!」
 「早く出て行ってよ!」
 「死ね!」
  いや、何といいますか。見事なまでに徹底してますね。
  先生までもが生徒に協力しているこの有り様。よくこれで教員免許を取得できましたよね、感心してしまいます。
  若はさっき言ったようにイジメに加わらないけど、助けもしません。ボクとしても困るのでとてもありがたいのですが。いやしかし・・・・・・・はっきり言うと、”アホらしい”この一言につきます。
  何がと言われれば全部です。何もかもくだらないくだらないくだらない。
  ボクが最低だから何ですか? 人間そんなものでしょう。
  ボクに出て行ってほしいって? できないからここにいるんです。
  死ね? 誰しもいつかは死ぬんです。
  馬鹿らしいったらありゃしない。アホらしいったらありゃしない。
  そんなふうにままならないのも、世の常でしょうが。何文句言ってるんですか、幼児でもあるまいし。
  まあ、一つだけ良いことといえば、家賊がここにいないことですね。
  ボクがイジめられてるなんて知ったら、双兄は不気味に笑いだして軋兄は笑顔でバット(釘付き)振り回し始めて、曲兄は狂ったように笑い出して、舞織は無表情になって、片割れはすっ飛んできますね、確実。
  そうなったら誰にも止められませんよ。暴走した零崎一賊なんて、放っておくしかないんです。
  そんな綱渡りのようなことをしているってあの人たちは知らないから哀れですよ。いや、知らぬが仏、ですか。
  あーもう本当。
  『メンドくせえ』
  ”呼吸”、しちゃあダメなんだよ。
  最低なボクは、何をしても最低だから。 


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