銀と紅

□十一
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律「どうしたお前たち。暗いぞ〜」
雷「神籬先生・・・それと雨羽くん?」

 律と銀だ。

律「何だ何だ、その幽霊でも見たようなびっくりした顔は。俺と雨羽はほれ、この資料を運んでいるだけだぞ」

 二人が抱えているのは分厚い資料の束だ。大方、律が銀に手伝わせたのだろうと思われる。・・・実際は銀が勝手に律を手伝っているだけなのだが、それがわかるのは残念ながらこの場では三郎だけである。
 はいっと、ハチが手を上げた。

八「先生、『銀風』の噂って知ってますか?」
律「おー。知ってるぞ。集落を襲ったとか何とかってやつだろ」

 何だお前たちにまで出回ってんのか、と続ける律に、仙蔵は静かに問う。

仙「神籬先生はどう思われますか?本当に『銀風』が自分で襲撃したのでしょうか。」

 その言葉に銀は僅かに目を細めた。
 酷い言いがかりだ。こっちはやっていないどころかここ何年も『銀風』として活動していないというのに、何故濡れ衣を着せられなければならない。ああ腹が立つ。
 こっそり銀の様子を窺っていた三郎は背中に冷や汗がたらりと流れるのを感じた。
 やばい。銀っていうか夜雨さまの怒りが沸々と沸き上がってるって。何とかして律さん!
 助けを求める三郎の目と律の目がばっちり合う。

律「さてなー。俺はそうは思ってないけど、そういうのは自分で考えろよ。これは修業だと考えてな。じゃあなー。」

 そう言って律は銀を連れて行ってしまった。

文「・・・・・・・自分達で考えろ、か。先生方はやはり何かしら知っているんだろうな」

 文次郎のその考えに三郎以外の全員が賛成の意を示す。

雷「でも自分達で調べられることなんて限られてるし・・・」
 「じゃあまず整理してみようじゃないか」
留「そうだな。ではまず、2週間ほど前から『銀風』による襲撃が始まった」
 「本当に『銀風』本人かわかってないから『銀風(仮)』にしておこうよ」
留「んじゃそうしておいて、と。被害はどれほどのものかわかんねえけど、話を聞く限りは酷かったみたいだぜ」
 「例を挙げてみれば、丹波の集落では村人258人中89人が死亡、怪我人は重軽傷合わせて127人らしいよ」
八「へえ、そんなに詳しくわかってるんすねー・・・・・ん?」

 ハチが首を傾げる。

八「食満先輩、さっきわかってないって言いませんでしたっけ?」
留「言ったぞ」

 そう、確かに先ほど留三郎は「被害はどれほどのものかわかんねえ」と言ったのだ。では、その後に詳しい被害状況を述べたのは・・・・・。
 そこまで考えた時、兵助とその隣にいた勘右衛門の肩がとんとんと叩かれた。

 「「ん?」」

 にんまり。
 ・・・・・・・・・・。
 ・・・・・・・・・・・・・。

 「「ぎゃああああああああああ!!!」」
雑「久しぶりだねぇ、五、六年生諸君」

 雑渡昆奈門はまたにんまりと笑った。と思ったらすぐさま大きく後退する。

雑「甘いよ」
小「あと少しだったんだけどなあ」

 彼が先ほどまで立っていた場所は小平太の拳によって破壊されていた。少し拗ねたような顔で小平太はぼやき、余裕綽々といった様子で雑渡は今度は左に動いた。縄標が彼の横を通り過ぎる。長次の放ったものだ。

雑「うん、良い反応だね。七松くん、中在家くん」

 長次と小平太は雑渡の姿を認識したその瞬間にすでに動いていて、見事な連携で攻撃を繰り出していたのだ。だが、攻撃自体は良かったのだが、雑渡の方が一枚上手で、二人は一気に距離を詰めてきた彼の動きに対応できずに簡単に押さえこまれてしまった。
 己の縄標を利用されて縛られながらもなお沈黙を守っている長次とは違い見事に関節技を極められて自慢の力を発揮できないでいる小平太はそれでも喚きながら全力で抵抗している。

小「はなっせええええええええええええええええええ!!!」
雑「いや、放したりしたら君攻撃してくるでしょ。大人しくしといてよ、じゃないと・・・・・クナイがぶすっと刺さっちゃうよ?」

 言葉通り彼のクナイは小平太の首元に宛がわれている。小平太が身を捩ったりでもしたら簡単にそれは喉へと突き刺さるだろう。

雑「君たちもだよ。ほらそんな物騒なものは下ろして下ろして」

 仲間の命を盾に取られては仕方がない。仙蔵たちは各々構えていた武器を下ろした。それを見た雑渡は満足げに頷き、二人を解放してやる。ついでにちらりと三郎の顔を見やると、可愛い弟弟子は不機嫌そうなオーラを醸し出していた。

雑「ところで酷いねえ。人の顔を見るなり攻撃してくるなんて」
伊「いつもいつも不法侵入してきてる、しかもタソガレドキの人がいきなり現れればそうなりますよ」

 さすがに何度も彼と会っているからか、伊作は警戒しながらもタソガレドキ忍者隊組頭とまともに相対できている。

伊「はじめに言っておきますけど、勧誘ならお断りです」
雑「違うよ。確かに君をうちへ勧誘するのは諦めてないけど、今回は学園長に話があって来たんだよ。ちゃんと入門表にもサインしたしね」

 えっへんと胸を張ってみせるが、大の大人がそんなことをやってみせても気持ち悪いだけである。

三「信じられないね」

 そう言ったのは六年生ではなく五年の三郎だ。

三「・・・本当に学園長先生に話があるなら私たちがあんたについて行ってもいいよな?」

 暗にお前を監視させてもらう、と言っているのだ。不審な動きを見せれば容赦はしない、とご丁寧に殺気までちらつかせている。
 もちろん三郎は雑渡が本当のことを言っているとわかっているが、関係を知られないためにわざと敵対心を剥き出しにしている。でなければ下手をすると夜雨や律のことまでバレかねない。

雑「ああ、いいよ」

 にやりと雑渡は笑う。今度手合わせでもしてやろう、と思った。


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