銀と紅

□十
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雷「ねえ、『銀風』って知ってる?」

 日向ぼっこをしていた三郎は雷蔵の問いに驚いて振り向いた。

八「知ってるに決まってるだろ。絵にかいたような正義の味方だよ」

 ハチが当然という顔で語り始める。
 弱き者の味方で悪は絶対の敵とする正義の忍。フリー忍者でなかなか姿を現さないために依頼するのも困難だが、困っている者の前には現れるのだという。
 年齢、性別、容姿など、全て謎に包まれていて、わかっているのはとにかく強いことと、何人か仲間がいるということだけ。

兵「え、私が聞いた話は違うよ」

 ぼーっとしながら聞いていた兵助はきょとんとした顔をしている。
 彼が聞いた話はこうだ。

 フリーの凄腕忍者で、依頼されれば誰が相手であろうと、どんなに非道な仕事だとしても平気でやってのける冷酷というのを体現したかのような人物で、任務の邪魔になる者は例外なく殺す。
 全てが謎に包まれており、ただ強いということしかわからない孤高で非情な忍。・・・・もっとも、これは数十年ほど前の話らしい。

 まったく正反対の二人の話を聞いた雷蔵は困惑したように頭を抱える。

雷「う〜ん、どっちが本当なんだろう・・・」
勘「俺的には兵助の話の方が本当っぽく思えるけどなあ」

 勘右衛門に言わせればハチの話はできすぎていて誰かが作った話のように思えるらしい。

三「(いや、どっちも本当なんだけどな)」

 確かに夜雨は数十年前までは残虐な忍だったが、神に色々されてしまったおかげで若返らされた後、何か思うことがあったらしく今は無闇やたらに人を殺すのは止めて逆に人助けをしているといったところだ。
 ちなみにハチが言った仲間というのは十中八九雑渡と律、そして自分のことだろう。というか夜雨に自分の知らない仲間が他にいたりしたら無く。マジで泣く。絶対泣く。

雷「三郎はどっちだと思う?」
三「・・・さあな。人間なんてそんなもんだろ。表があれば裏もある。でも何でいきなり『銀風』の話なんかしだしたんだ?」
雷「あのね、最近『銀風』の噂がそこら中に出回ってるんだ」
 「「「「噂?」」」」

 今度は三人だけでなく三郎も食いついた。他のことは正直どうでもいいが、『銀風』のことに関してならば情報を怠るわけにはいかない。

雷「うん、それは・・・・」
仙「それは私たちから話そう」

 話そうとした矢先に割り込んできた、聞き覚えのある声。いつからそこにいたのか、仙蔵及び六年生の面々が縁側でのんびりと茶を飲んでいた。

雷「た、立花先輩っ。それに他の六年生の皆さんも・・・」
仙「『銀風』には私たちも興味があってな。色々と探っていたんだ」

 聞けば『銀風』の噂は忍者の間だけでなく、町の方まで流れているらしい。

伊「まだ調査途中だけど、結構たくさんわかってきたんだ」
八「へえ、どんなのですか?」

 ハチが興味津々といった様子で身を乗り出しながら問う。他の四人も同様だ。
 対して六年生は皆一様に眉間に皺を寄せ、厳しい表情になる。あの小平太もだ。
 口火を切ったのは仙蔵だ。

仙「・・・・・『銀風』がその名の下に管理している集落がいくつかあるのは知っているな?」

 五人は頷く。『銀風』は戦う力を持たない弱い集落を盗賊などから守ってやったりしていて、見返りに金をもらっている。単純に言ってしまえば契約を結んでいるのである。

仙「だが、ここでおかしなことが起こった」

 その銀風が、自らが守っている集落を襲撃したらしい。

勘「え!?だって自分で守っているところなのに・・・」
伊「だからおかしいんだよ尾浜」
留「普通に守ってるだけで金をたんまりもらえる。っていうのにわざわざ自分でそれを潰すのは変な話だろ?だからどうせどっかの馬鹿な輩が『銀風』を騙ったんだろうが、だが・・・」

 そこで留三郎は言い淀む。迷うように目を泳がせるが、すぐに言いにくそうに再び口を開いた。

留「ほら、『銀風』って昔殺戮を繰り返してた冷酷な忍だっていう話もあるだろ?だから、その・・・本当に自分でやったっていう線も消せなくてな」

 たしかにその通りだ。ハチが言った通りの正義の忍である『銀風』ならば誰かがその名前を騙っていると思われるが、兵助の”冷酷非道”という『銀風』なら邪魔だと思った集落の一つや二つを潰すくらい、平気でやってのける。
 全員が考え込んでしまい、重苦しい沈黙が降りた時、賑やかな声がそれを破った。

 


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