銀と紅
□六
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学園の隅にある飼育小屋で、銀は一人動物達と戯れていた。
『こら、白(ハク)。涎で服をべとべとにしないで。空(クウ)も、髪をひっぱんないの』
優しく注意された白い毛をもつ狼と濡れたような黒い羽根の鴉は、大人しく舐めたり嘴で髪をひっぱったりするのを止めた。きちんと躾がなっているようでなによりだ。
『・・・・で、お前はいつまでそこにいるつもりだい?―――三郎』
銀がそう言うとがさりと茂みが音を立て、ばつの悪そうな顔をした三郎が現れた。
三「・・・・・バレてました?」
『バレバレ。もっと上手くならなきゃね』
三「はーい」
しゅん、と三郎は肩を落とす。
『・・・だけど、武術の腕は上がったようだね。確実に強くなってる』
そう言った途端にぱあああっと輝くような笑顔を見せた三郎はそのまま銀に抱き着いた。
三「夜雨様も素敵でした!!っていうか素敵過ぎてヤバいです!でも、その中でも華麗で流麗で、兵助を倒したときのあの足捌きなんか造作もなくやってのけているのがまたかっこよくて!それで・・・」
顔を紅潮させ、試合のときの興奮そのままに語る三郎を微笑ましく思い、優しく抱きしめ返す銀――夜雨はぽんぽんと背中を叩いてやる。
『私としては三郎の方が凄かったと思うよ?二週間前できなかったとこがきちんとできてたし』
三「夜雨様大好きいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
ぎゅううっとさらに強く抱きしめてくる三郎は年相応の表情を見せており、言動も幾分か子供っぽくなっている。
ちなみに今更だが、現在三郎は雷蔵の顔ではなく、変装を解いて本当の自分の顔をしている。夜雨個人としてはこちらの方が三郎、という感じがしてしっくりくる。やっぱり見慣れた顔だからだろう。
そろそろ苦しくなってきたので少し腕を緩めてもらいたいが、そう言うと三郎はイヤイヤと首を振る。
『三郎』
三「いやです。まともに夜雨様とお話するのもふれるのも一週間ぶり何ですよ?!夜雨様不足です!」
『私不足って・・・』
まるで母を慕う子供のような行動をとる彼は一向に離れようとしない。少し放っておきすぎたか。
三「それに・・・・」
震えた声で三郎は続ける。
三「夜雨様なら大丈夫って思ってたけど、でも、兵助の蹴りが入ったときは本当に心配したんですよ・・・!?」
その言葉を聞いて夜雨はすっと目を細める。同時に切なさが胸の中を駆け抜けた。
三郎がそう言う気持ちはわかる。大切に想っている者が戦う姿を見るのはいつもハラハラさせられる。攻撃されると心配になるし、不安で胸が押し潰されそうになって、負わせた相手への怒りなどの黒い感情が心の奥底から湧いて出てくる。
だが、それでは駄目なのだ。それでは、この子が駄目になってしまう。