銀と紅
□四
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やはり授業はいろは入り交じっての試合になった。だが勝敗は大体パターン化してしまっている。
同じ組同士で戦えばわからないが、い組とろ組ではい組が勝ち、ろ組とは組ではろ組が、い組とは組では当然い組が勝利を収める。だが、そんな中でも三郎、八左ヱ門、雷蔵は勝利していた。
い組の一人、勘右衛門も勝っており、残る試合は一つとなった。
い組の久々知兵助とは組の雨羽銀の試合だ。
兵「じゃあ行ってくる」
八「軽くひねっちゃえよー」
雷「こらハチ。雨羽くんに失礼だよ」
八左ヱ門と雷蔵のやり取りにくすりと笑った兵助はじっと自分を見つめる三郎の視線に気づいた。
目を合わせると雷蔵の顔を借りている三郎はにやりと笑う。
三「――――兵助、本気でいけよ」
兵「当然」
当たり前だ。例え相手がは組だろうと油断していれば己の足元をすくわれる。
相手には悪いが、本気でいかせてもらう。
兵助が行った後、三郎の顔を覗きこんだ勘右衛門は目を見開いた。
勘「・・・・・三郎?」
三郎は唇を噛みながら見たこともないほど真剣な顔で兵助と銀を見つめている。まるで、何一つ見逃すまいと、一挙手一投足に全神経を集中させている。
三郎の異変に雷蔵たちも気づいたのか、困惑した様子で話し掛けた。
雷「ねえ三郎、どうし・・・・」
三「・・・・・よ」
雷「え?」
三「瞬きせずに見ておけよ」
その言葉の真意を聞く前に木下の「始めっ!」という声が響き渡り、何が何だかよくわからないまま彼らも試合のほうに目を向けた。
『よろしくお願いします、久々知くん』
ぺこりと己に頭を下げた少年、雨羽銀はにこりと笑う。見た限り、大人しそうで戦闘にはあまり向いてなさそうだ。
だが、油断はできない。こういうタイプに限って恐ろしい実力を秘めているものだし、あの三郎が本気を出せ、というほどの相手だ。
用心に越したことはない。
木「始めっ!」
合図と同時に後方に下がり、距離を取る。向こうが動く気配はない。
しばらく対峙した状態で睨み合っていたが、こちらも相手も動かない。ならば。
兵(一気に片をつける!)
流れるように腰を少し落としてから飛び出す。まだ向こうは動かない。
こちらの速さについてこられないのか?
あと二歩ほどで間合いに入るかというところで、ようやく銀は動いた。だが、もう遅い。
間合いに入り、右の突きを繰り出す。まずは小手調べ。
『ッ!』
左腕でこちらの腕を押さえながら左に避けられた、想定内の反応だ。ならばと右の手首を返し左腕を掴んでぐいっとこちらに引き寄せそのまま右腕を鳩尾に叩き込んだ。
兵(入った!)
『がっ・・・・!!』
苦悶の表情を浮かべながらも銀は倒れない。だが、今の攻撃がそれなりに効いたのか、後退したあとは鳩尾を押さえ、荒い息を吐きながらこちらを睨みつけるだけだ。
兵(これがは組の実力か)
予想はしていたが思っていたよりも酷い。四年い組のほうが強いのでは、と思うほどだ。
怒りと失望を覚え、苛立ちに任せて殺気を放つ。とっとと終わらせよう。
足に力を込め、先ほどよりも強く地を踏みしめ速く地を蹴る。
あとは軽く体制を崩させて後ろに回り込み、動きを封じるだけ・・・。
兵「っああ!?」
木「勝者、雨羽!」
次の瞬間彼は仰向けに倒れており、勝敗を告げる声が響き渡っていた。