銀と紅
□三
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『おばちゃん、A定食お願いします』
「はいよ」
食堂のおばちゃんから定食を受け取った雨羽銀はまだ誰も座っていないテーブルを見つけ、そこの席の一つに腰を下ろした。
今日のメインのおかずは唐揚げだ。うん、おいしい。
律「よう雨羽。一人でメシか?」
顔を上げるとそこには五年ろ組担任の神籬律の姿があった。手にはおばちゃんが作ったB定食の乗った盆が。
ここ座るぞーと言って銀の了承も得ずに勝手に彼の前に座った律は、手を合わせて美味しそうに食べ始めた。
律「何だ、食わねえのか?」
もぐもぐと口を動かしながら聞かれた銀は思いだしたように手を動かす。
『先生、こんなところでのんびりしていらっしゃっていいんですか?』
律「いーんだよ。どうせ次は実技の試合だしな。大した準備もねえし」
『・・・・木下先生に怒られても知りませんよ―』
本来律は五年ろ組の実技担当なのだが、教科担当の先生が不在なため、彼は今現在ろ組の全ての授業を受け持っている状態なのだ。
<・・・・ところで、タソガレドキに動きが>
<知っているよ。昨日わざわざこっちに奴が来たしね。でも小さな戦を仕掛ける程度だし、今回はほっとくよ>
<わかりました>
傍目には微笑ましく教師と生徒の会話を交わしながら矢羽音でまったく違う事柄を二人は確認しあう。正確に言うと律が銀に指示を仰いだのだ。
その後も色々と会話をしたり矢羽音を交わしたりするうちに互いの膳が全て空になったので、律も銀も授業の準備をするためそこで別れた。
『じゃあ先生、ボクはこれで・・・・』
律「ああ、遅れんなよー」
銀は律に背を向け、青空を見上げる。
今日は実技。律の口ぶりからするに試合形式のものだろう。楽しみだ。
さながら肉食獣のごとき笑みが浮かんだ。
己を楽しませてくれる奴はいるのだろうか?