銀と紅

□二
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 ――お前のそのの術は、今のままでは決して解けることはない。
 ――お前は知らなければならない。闇があれば光もあるということを。取り戻さなければならない。持っていたはずの感情を。感じなければならない。情の深さを、愛を。
 ――お前の”光”を。『本当に大切なもの』を見つけたとき、その術は解けるだろう。
 ――長い長い時間を掛け、見つけ出せ。







律「・・・・んじゃあ今日はここまで!今度テストするからしっかり勉強しとけよー」
 ヘムヘムの鳴らす鐘の音を聞いて授業の終了を告げた神籬律はクラス中からのブーイングを軽くスル―して教室から出て行った。
 その姿をぼーっと眺めていた鉢屋三郎は左に座っていた不破雷蔵に話し掛ける。
三「雷蔵、午後ってなんだったっけ?」
雷「えーと、たしか五年生全員で実技だったと思うよ」
 雷蔵の言葉に一番窓際に座っていた竹谷八左ヱ門はあらかさまに嫌そうな顔をした。
八「げ、い組ともかよ」
三「何だハチ。嫌なのか?」
八「嫌っつーかな・・・試合とかになったら面倒くさそーで」
兵「面倒くさそうで悪かったね、ハチ」
 聞き慣れた声を耳にしたハチは後ろを振り返り、苦笑した。
八「誰も兵助のことなんて言ってないだろ」
勘「じゃあ俺?」
八「いや勘ちゃんでもないし。そうじゃなくてだな、い組って比較的プライド高いからさ」
 彼の言葉に久々知兵助と尾浜勘右衛門はああ、と納得したように同時に手を叩いた。この忍術学園は一学年三クラスという体制を取っており、だいたい成績順に生徒は振り分けられている。そして、その学年の優秀な者たちの集まりであるい組は一部を除いて総じてプライドが高く、それは五年生も例外ではない。
三「ま、たしかにな。でも、い組の連中は我々ろ組に負けるよりもは組に負ける方が嫌だと思うだろうけどな」
八「だな」
 三郎の見解は正しい。は組は基本的に大人しく、実技よりも座学が得意な者ばかりだ。可能性は低いとはいえ、い組にとっては組に負けることは屈辱以外の何物でもないだろう。
雷「まあまあ皆。そろそろ食堂に行こうよ。お昼食べそこねちゃうよ?」
勘「そうだよそろそろ行こうぜ」
兵「豆腐あるかなー」
三「行くぞ―ハチ」
八「ちょ、置いて行くなって!」





  
  ――――六年教室
仙「おい、聞いたか?」
伊「何をだい仙蔵」
 いつもの6人で食堂に向かう途中、思い出したように立花仙蔵は口を開いた。
仙「今日の午後、五年生はいろは合同で実技をするらしい」
文「合同で実技ということは試合か」
 潮江文次郎の言葉にきらきらと輝く眼で反応したのはいけどんの七松小平太だ。
小「試合なら私もやりたいやりたい!」
留「小平太。試合をやるのは五年生だぞ」
小「えー、やだっ!」
 食満留三郎の訂正もなんのその。幼子のようにぶーたれる姿は”暴君”の異名にふさわしい。
小「やだやだやーだー!!」
長「・・・・・・・・もそもそ」
 ぶんぶんと首を振る小平太の肩に手を置き、聞きとれないほど小さな声で中在家長次は話し掛けた。すると小平太はうーん、と腕を組み、何か考え込み始めたが5秒ほどでうん、と頷いた。
小「わかった、今日一番強そうだった奴と戦うことにする!」
伊「って小平太、見に行く気?」
 小平太に頷きかけた善法寺伊作は少し焦ったように問うたが、小平太は当たり前だと言わんばかりの表情をしている。
小「当然だろう!なあ長次」
 静かに小平太の隣に立っていた長次はこくりと頷く、どうやらこうなることはとっくにわかっていたらしい。
仙「私も見に行くとするかな。文次郎、付き合え。」
文「何故俺が・・・っわかった!わかったから焙烙火矢をしまえ!」
 どうやら忍術学園一ギンギンに忍者しているという彼でも、仙蔵には勝てないらしい。にこりと美しく笑う彼の手には彼愛用の焙烙火矢が黒々と光っていた。
小「いさっくんたちも来るよな?な?」
 小平太の純粋な瞳には何か力でもあるのだろうか。気づいたら留三郎も伊作も首を縦に振っており、見に行くことが決定していた。
留「ま、俺も見てみたかったしな」
伊「しょうがないなあ」


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