銀と白銀と紅

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「香織、おはよう!」
「香織はよく頑張っているな」
「香織せんぱーいっ!」
「その荷物持ってやるよ、香織」


 香織香織香織香織と、よくもまあ毎日毎日女のケツを追いか回して飽きないものですな、世の男共は。
 ああ、自己紹介が遅れましたね。初めまして。私、仁王夜雨と申します。ええ、そうです。前世は室町時代で忍者で150歳以上生きたあの夜雨です。・・・・どの夜雨でしょうね。
 私、前世ではバイオレンスな毎日を送り、何か色々あったのですが、喜ばしいことにようやく死というものを体験することができました。しかし、何をとち狂ったのか、前世の記憶を持ったまま生まれ変わってしまったのです。
 無論いきなり見知らぬ世界に生まれてしまった私はそれはもう混乱しました。前世であのクソ神に”若返りの術”を掛けられた時以来でしたよ。ああ今思い出してもイライラする。
 しかしですね、私が生まれ変わっているということは、私の可愛い可愛い三郎や律(あ、あの昆(変態)も)がこの世界に生まれ変わっているかもしれないじゃないかという望みも同時に出てきまして、私希望を持ちました。
 幸いこの世界は科学技術が非常に進歩していまして、人間二人(と変態一匹)を探すことならばできそうなのです。なので、私はまずこの世界のことを学び、この世界の技術を利用してやろうと考え、必死になって勉学に励みました。
 とはいえ私は自他共に認める演技派(ねこかぶりとも言う)でして、勉学に励んでも周囲にそのことを悟られるという愚かなことは致しません。あくまで私は普通を装って生きてきたのです。
 その甲斐あってか、この世界に生まれて早17年。私は以上と見られることなく生きて参りました。・・・・そう、私はです。
 悲しいかな私とほぼ時を同じくして生まれた我が双子の弟は、残念ながら端麗な容姿と艶やかなオーラを持っておりまして、私と違って非常に目立つのです・・・・ってそうですよ。聞いてください、私弟ができました。
 私かねてから可愛い弟が欲しかったのですが、この世界の神は優しいのですね、弟ができました。それも二人もですよ!?
 おまけに二人とも私に懐いてくれているみたいで本当に可愛いのです。・・・・こらそこ。発言がババ臭いとか言わない。精神年齢的にはすでに150を軽く超えているんだから仕方ないじゃないですか。・・・・もっとも下の弟(現在中学1年)は今流行りのツンデレというやつでして、ちょっぴり素直ではないのですがそれも許容範囲内なので問題はまったくありません。・・・・話が完全に脱線しましたね。
 とにかく、です。先程言った双子の弟(上の弟ですね)は同じ双子とは思えないほど何というかきらびやかなんですよね。三木ヱ門くんのようなアイドルというやつです。
 で、上の弟――仁王雅治(愛称は「まさ」か「まーくん」です)はテニスというスポーツにどっぷりハマりまして、中学・高校と部活の仲間と共に切磋琢磨していたのですが、数か月ほど前からなんだか少々ヤバい雰囲気になっているようで・・・・・。
「大丈夫、まさ?」
「夜雨〜、もうダメじゃ・・・。部室内が息苦しいぜよ・・・臭くって」
 ぐてー、と自分の席に座る私の目の前で、私の机に突っ伏しているのが私の可愛い弟の雅治。この可愛さは三郎にも匹敵しますよ、ええ絶対に。
「男子の汗臭い体臭なら嗅ぎ慣れてるだろうに」
「汗臭いのは真田とジャッカルと赤也じゃ・・・・ってそうじゃなくて」
 顔は伏せたまま雅治はびしっとツッコミを入れる。・・・・・というか、何故この子はいまだに方言なのでしょうか。
「汗臭いのはいつものことじゃから今さらどーこー言わんけど、香水臭くって・・・・」
 香水ですか。前の世界では香とか匂い袋でしたからね。いやああんな物があると知った時は若干衝撃を受けましたよ。「こ、こんなお手軽な物があるなんて・・・・!」とね。
「香水が嫌って・・・・そんなものを付けるようなオシャレな人っていたっけ?レギュラー内に」
 いえ、決して男子テニス部のレギュラー陣がガサツな男共の集団というわけではありませんよ?汗まみれな男は真田くんや文次郎くんぐらいで充分です。というかあのレギュラー陣が汗まみれでくっさい集団だったら本気で引きますよ。だってあの柳くんや幸村くんが汗まみれで体臭がアレとか想像できませんし。
「そうじゃなくて、あいつじゃあいつ」
 ちょいちょいと雅治が指差した先には、丸いブタ・・・・・ごほん、丸井ブン太くんと楽しげに談笑する一人の女生徒。えーと、彼女はたしか・・・。
「・・・・・二宮香織、だっけ?男を侍らせて内心高笑いしてる性悪女」
「・・・相変わらず夜雨は嫌いな奴に対して酷いのう」
「え、まさを悲しませるような奴に対して優しさなんかいるの?」
 そう言ったら雅治は黙ってしまいました。私は何か言ってはいけないことを言ってしまったのでしょうか・・・・・?
 先程も述べた通り、二宮香織という女は性悪です。ある意味私よりもタチの悪い女ですね。あれですか、逆ハーレムとかそういうやつですかコノヤロー。男に媚びて上目遣いでオトして何が楽しいんでしょうねホント。
 彼女はテニス部のマネージャーなのですが、雅治によると仕事などまったくしていないらしく、ドリンクやらタオルやらは一年生が健気にもやってくれているそうです。自分のやるべき仕事を放棄して人に押しつけるなんて最低ですね。
「う〜」
「はいはい。思いっきり甘やかしてあげるから、頭をぐりぐり押しつけるのは勘弁」
「うーー」
いやもう本当に。何なんですかこの子。可愛すぎます。


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