全力疾走
□準備+衣装合ワセ=本気
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俺は丸井をからかった後、仕事をサボり名無しさんのクラスに来た。試着だろうと名無しさんのお姫さんの姿を早く見たかったからのう。
「え?きゃあ仁王くん!」
「どうしたの!うちのクラスに何か用?」
名無しさんのクラスに着くと、途端に俺に群がり出す女たち。何となく予想しとった俺はため息を出さずにすんだ。
とりあえず名無しさんの姿を見つけることに集中した。
「あれ、仁王くん?」
キョロキョロとする俺の耳に聞きなれた安心するような声が聞こえ、思わず口元が緩む。
「どうしたんですか?何かご用でも?」
「いや、お前さんの衣装がどんなか気になって見に来たぜよ」
小走りに駆け寄る名無しさんはドレスに身を包んでいた。手作りなのか豪勢ではないが、そのシンプルさが逆に名無しさんの顔を引き立てる。
ただ、すこし大きいんかドレスの裾を持ち上げるようにして歩くのにはなんだか笑ってしまった。
「似合ってますかね?」
「おお。ようけ似合っとるよ」
「ブン太くんも言ってくれるかなあ…」
…また、ブン太、か。
「どうしたんですか仁王くん」
「いや、名無しさんがほんに可愛いと思っただけなり。俺の彼女になればええんに」
「またまたあ。仁王くんは誰にでもそういうこと言ってるんじゃないですか?」
「名無しさん以外の女なんて面倒なだけじゃ」
名無しさんの少しふざけた物言いに想いを否定されたような気がしてしもうて少し強めに言い返してしまった。名無しさんは目を丸くして俺を見ている。
しまった。こんなつもりじゃなかったのに。
最近、名無しさんへの想いが強くなる一方で段々隠しきれなくなってきている。
「…きっと。きっといつか、本気で仁王くんのことを好きになってくれる女の子が現れます。何を言われても何があっても仁王くんのことを好きであり続ける」
「名無しさん…」
「もしかしたら仁王くんが誰かを本気で好きになるかもしれません。今の私みたいに。そうしたら面倒だなんて言ってられないですよ」
そうして目を細めてどこか悟ったように笑った。それを見て改めて思う。
どうあっても名無しさんが俺を好きになってくれるのとなんてない、と。
「……そうか」
「ええそうです!」
胸を張って答える名無しさん。俺はお前が好きなのに、なんて未だに思う俺は随分と諦めの悪い男やな。
だけどあの二人の想いが通じ合うまでは、それまでは許してほしい。
「名無しさん」
「ん?」
「劇、頑張りんしゃい」
「はい!」
いつか俺にも現れるんかの。名無しさん以外に本気で好きになれる奴が。
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