全力疾走
□文化祭+後夜祭=自覚
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あれから名無しはクラスの出し物を手伝うからと俺に大きく手を振りながら屋上から出ていった。
俺は一連の出来事から更に文化祭を楽しむことが、ましてや仁王と回ることが億劫になり、屋上で本気で眠っちまった。
気付いたら辺りは真っ暗で。
「……ん、やべー。結構寝ちまったか?」
屋上の柵に体を預けて固まった体を解しながら校庭の方を視線を向ければ、そこでは後夜祭が始まってるのか軽音部らしき奴らがバンドを披露していた。
歌声が楽器の音と周りの奴らの声にかき消され、一欠片の興味も湧かない俺はとりあえず教室に荷物を取りに行くことにした。
「どうすっかなあ。このまま帰るか?仁王には連絡しとかねえと後でうるせえよな」
携帯を取りだし、仁王にメールしながら歩く俺は何となく視界に入れた教室で誰かが机に伏せているのに気付いた。
後夜祭にも出ねえで寝てるなんてどこの物好きだ?と自分のことは棚に上げ、そっと教室内を覗くと、寝ていたのは名無しだった。
「コイツまだ着替えてないのかよ。まあ、相当頑張ってたみてえだし」
寝ている名無しに歩み寄り、その姿を眺める。何ともまあ気持ち良さそうに寝てんよな。
「うわ、よだれ垂れてやがる」
半開きの口から垂れるよだれを見つけて俺は笑いを堪えんのに必死になった。
「ブ…太くん、」
ピタリと笑いが収まった。そんで徐々に顔が熱くなってくる。これは寝言だ。分かってんけど止められねえ。
「…ばーか」
あまりに気持ち良さそうに寝てる姿に段々ムカついてきて、取り敢えずでこピンした。それでも名無しは少し顔をしかめるだけで起きることはねえ。
名無しについて分かったことがある。コイツは超がつくほどの頑張り屋だ。何も考えてねえようで、色々考えてるし、俺のことが大好き。
次々と見えてくる名無しの一面に俺は振り回されっぱなしだ。
あと、俺自身について気付いたことがある。
本当はもう少し前に気付いてもよかったはずだけど、気付かない振りしてた。なんか悔しいから。
でも、もう誤魔化しがきかねえ。
「……好きだ…」
俺の心情に合わない激しい音楽が聞こえてくる中、月明かりが微かに差し込む薄暗い教室で俺は吸い込まれるように唇を重ねていた。
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