全力疾走
□準備+放課後=嫉妬
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今日名無しを呼びにきた男と名無しが教室に2人っきりで。広い教室にしては妙に近い2人の距離に胸がざわつく。
「王子様。私は貴方と離れたくありません、ここから連れ出してください!」
「姫、私もそなたと一時だって離れていたくはない」
「王子様…、」
キスでもするんじゃねえかってくらいお互いを見つめ合いどんどん近くなる2人の距離に、俺の足は自然と動いた。
「何すんだよ…って、テニス部の丸井!?」
「ブ、ブン太くん!?」
気がつけば男の肩を掴んで動けないようにしてて、混乱してる二人を後目に俺は名無しの腕を掴んで教室を飛び出た。
名無しに歩調を合わせてやるのも忘れてただただ教室から遠ざかろうと宛てもなく歩き続ける。
「ブン太くん!」
「…っ!」
名前を呼ばれてやっと我に返った俺はとりあえず急いで近くにあった空き教室に入った。
「……」
「腕、痛いです」
「わ、わりぃ」
沈黙が生まれ、さっきまでの一連を思い返し、ようやく俺は自分が何を仕出かしたのか理解した。
何だよこれ、俺…
「俺、なにしてんだろうな」
恥ずかしいやら情けないやらでその場に座り込んだ俺に合わせるようにしゃがんだ名無しは何か考えるような素振りを見せてからもしかして、と真剣な眼差しで俺を射ぬく。
「もしかして嫉妬してくれたんですか?」
「はあ!?」
「だってあの行動、私が男の子と二人きりでいたから嫌だったんじゃないですか?」
「じ、自意識過剰だ、」
「ふふ、嬉しいなあ」
「聞け!つうかそんなわけないだろぃ!」
「またまたあ。照れ隠しですか?隠さなくてもいいんですよ。彼はただの友達ですから!」
「…っ、アホ!」
ニヤニヤしてくる名無しの頭を叩いた。痛みで顔を歪める名無しを見る俺の顔は熱があるんじゃねえかっていうくらい熱くて。心臓が今までにないくらい早く脈打ってて。ギュッと締め付けられるように痛い。
ただ、その痛さが不快じゃねえってことに気付いていた。
「嬉しいなあ」
「いつまでニヤニヤしてんだよお前は。……ほら帰るぞ、早く荷物取ってこい」
「え…?い、一緒に帰ってくれるんですか!?」
「お前には俺がこんな暗い中を女1人で帰らすような男に見えるのか」
ブンブンと首を振って笑顔で鞄を取りに行く名無しに昇降口にいると伝えて俺も歩き出す。
「ブン太君!」
「なんだよ」
「本当に、本当に嬉しいです!私ブン太くん大好き!」
廊下の先で声を大に告白してくる名無しにヒラヒラと振り返らずに手を振った。
振り向くなんて出来るわけがねえ。今の俺はきっとさっき以上に顔が赤い。きっとこの髪と同化できるんじゃねえかってくらいに。
いつものことだ。アイツの告白なんて。毎日のように好き好き言ってくんじゃねえか。それを前みたいに適当にかわすかスルーすればいいだけだ。
なのに、そのいつも通りができなくなってる。名無しに好きと言われて鼓動が早くなる。体が熱くなる。
本当になんだってんだよい。
理解しきれない感情を持て余した俺はただただ熱を冷ますことに必死だった。
「クソッ」
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