全力疾走

□春+彼女=溜メ息
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「本当に大変なんだぜぃ、いつもどっからともなく俺の前に現れて…」

「それは愛の為せる技です、ブン太くん」

「愛、なんて俺ら中学生に分かるわけ……って、うわああああああ!」

「煩いぞ丸井!」




腰が抜けて椅子から落ちた俺の横、ようするに俺と仁王の間の通路にいつの間にやら話の中心だった名無しがいて。

「来ちゃいました!」なんて舌を出しやがった。




「来ちゃいましたって、今HR中だぞ!何でここに来れんだよぃ!」

「私の心配してくれるんですか?でも大丈夫ですよ、私のクラスの先生お休みですから」

「初日から休みって、どんな先生じゃ…」




仁王の静かなツッコミに俺は全力で同意した。それに名無しの心配をしてるわけでもないから、そこんとこ勘違いしねえでほしい。




「つうか俺らのクラスは普通にHR中だからな!」

「それも大丈夫ですよ」




ほら、と言って名無しが指差す先には俺らの担任がいて、親指を立てて俺にウインクした。


何だよぃその、お前の恋路の邪魔はしねえから頑張りな!みたいな顔は。
煩いっつって怒るくらいならコイツのことも怒れよ。



俺はチラリと仁王の方を見て助けを求めた。よっぽど俺が必死に見えたのか仁王はため息をついてから名無しに話しかけてくれて。




「名無しさん、今なブンちゃん具合悪いんじゃ」

「なんと!ブン太くん大丈夫ですか!?」

「ブンちゃんな頭が悪い、やなくて頭が痛いらしくて大きい声出すと頭に響くナリ」




仁王がそう言えば名無しはすぐに自分の手で口を塞ぐ。その時仁王の表情が崩れたのを俺は見逃さなかった。




「じゃけえ、な?今はそっとしといてくんしゃい」

「…むむ。分かりました。ブン太くんの為に私はクラスに戻ります。ブン太くん後でお見舞いに来ますね!」

「……おお、」




静かにかつ素早く教室を出ていった名無しと、笑顔で名無しに手を振る仁王を見て俺は人知れず溜め息を吐いた。



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