全力疾走
□文化祭+後夜祭=自覚
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今日は文化祭二日目。最終日。
初日?まあ、それなりに楽しかったぜ。部活とクラスの出し物で忙しかったけどな。
比例するように今日は暇だ。
仁王には名無しの出演する演劇を観に行こうと誘われたが、どうにもそんな気分にはなれなかったから断った。
ていうか名無しを見ると、なんかおかしくなんだよ。
「あー風気持ちー」
1人で見て回っても面白くねえし、俺は屋上で休憩することにした。この学校は屋上を開放してんからいつもそれなりに人がいるけど、こんな日に来るような物好きは俺くらいしかいねえみてえだ。
端の方で寝転がると文化祭特有の喧騒が聞こえてくる。それに耳を傾けながら心地よい風に身を任せ少し寝ようかと目を閉じたときに、屋上のドアが開く音がした。それから足音が段々近付いてきて。
「ブン太くん、こんなところにいたんですね!」
耳元でうざいくらいに聞き慣れた声が発せられて、飛び上がった俺が目にしたものは。
「おま、お前!なんて格好できてんだよぃ!」
「へ?」
ドレスを着た名無しだった。
髪もアップされて、着てるドレスはシンプルでそれが逆名無しに似合っていて、正直……かわいい、と思う。
名無し自身は俺の言った意味が分かってないらしく、何がいけないのかと自分の服装を何度も確認していた。
「…劇はどうしたんだよ」
「終わりましたよ!ブン太くんの姿が見えなかったので仁王くんに聞いたらきっとここだろうって」
仁王くんの言うこと当たりましたね。なんて朗らかに笑う名無しから顔を逸らし思わず舌打ちをした。アイツなに余計なこと言ってんだよ。
「ブン太くんはこんなところでなにをしているんですか?」
「休憩」
「文化祭を?…あ、でもここ風が気持ち良くて良い場所ですねえ」
俺の隣にストンと座る名無しの姿をチラリと盗み見た。
近くでよく見ると少し汗かいて、髪の毛も若干崩れてる。そんなに俺を探し回ってたのか?改めてその姿をみて、初めて罪悪感が湧いた。
別に見に行くなんて約束してたわけじゃねえからそんなの感じる必要もねえはずだけど、コイツは本当に俺が好きで。
きっと俺が観に行ったら相当喜んでたはずだ。劇の最中に俺の姿を探すくらいだぞ。それを知ってたはずなのに俺は観に行かなかった。
「……悪かったな、観に行かなくて」
「え?いや、別に」
「お疲れさん」
名無しの髪の毛を崩さないようにそっと頭を叩いてやった。途端に触れた手が熱くなる。目の前で驚愕から喜びに表情を変えていく名無しに顔も熱くなる。
「はいっ!」
でも目を逸らせなかった。少し頬を染めてはにかむ名無しの笑顔がいつもよりも特別な笑顔に見えたから。ずっと見ていたいって柄にもなく思ったから。
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