全力疾走

□応援+理由=認メル
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「もうすぐ全国大会。俺たち3年はこれが最後だ。悔いのないように…いや、立海の誇りにかけても優勝する」





幸村がそう宣言をしたのは2,3日前。





「俺はお前さんにも譲りとうない」





仁王がそう宣言をしたのは2週間くらい前。



あの後は何となく気まずい俺たちのことなんて知るよしもなく、名無しと弟たちは思う存分楽しんでいた。



いくら気まずいだのなんだの言っても時は過ぎていくわけで。仁王とは毎日顔を会わせてるけど、あの話題を出すこともなく今まで通り過ごしている。





「全国大会か。泣いても笑っても最後だな」

「幸村も戻ってきたし、優勝は譲らんぜよ」

「頑張ってくださいね!」





休み時間になると名無しが教室に来ることも変わらない。

今日も懲りずに教室に来た名無しは俺たちの話を聞き、応援してます!なんて笑顔で言っていた。





「そうじゃ、名無しさん。俺の試合を応援に来てくれんかのお。お前さんの応援があれば百万力ぜよ」

「あ、……えっと、ごめんなさい」

「丸井もおるんじゃぞ」

「うん。だからです」





これでもかという笑顔を困ったような申し訳なさそうな笑顔に変える。


俺がいるから応援に来ない?全く意味がわかんねえ。そういえば前にも思ったけどアイツが俺の試合や練習見に来たことってねえよな。





「それ、どういう意味だよい」

「…でも、たいした話じゃ」

「名無しさん。話してみんしゃい」





俺と仁王に促され、名無しはしばらく考えたのち、小さく口を開いた。





「邪魔したくないんです」

「邪魔?」

「ブン太くんは、本気でテニスをしているから…私はそれの邪魔をしたくないんです」

「見に来たらテニスの邪魔するんか?」

「ほら、私ってブン太くん見ると好きすぎて黙ってられないから」





ブン太くんの大切なものは私にとっても大切ですから。そう続けた名無しの言葉に迷いはなかった。



考えたことがなかった。名無しがどんな理由で試合や練習を見に来なかったのかを。考えたとしてもそんな理由があるとは思いもしなかったと思う。


コイツはずっと俺のために俺のことを考えてそんなことを思って。





「……馬鹿だろぃ」

「え?」

「名無し。お前全国大会見に来い」

「え…ええ!?」

「余計な気を遣いやがって。お前がいたところで俺の天才的なプレイに一ミリたりとも影響なんて及ぼさないんだよ」





俺の言葉を聞き、瞬間的に顔を歪める名無しを見て仁王は俺に責めるような視線を送る。だけど、俺の言いたいことはまだ終わってねえからあえてそれは無視した。




「そ、そうだよね…」

「おい丸井」

「だから、その目にしっかりと俺の天才妙技を焼き付けろぃ。俺が好きなら俺の好きなもんもしっかり理解しとけ」

「ーーっ、うん!!」





俺の言葉をどう受け取ったのかたちまち笑顔になる名無しは本当に俺が好きだよな。


俺の言葉に一々表情変えて。笑ったり落ち込んだり。



少し。少しならコイツが俺のこと好きなんだってこと認めてもいいって思った。





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